三章 * 「うーん。何度読んでも分からん!」 そう叫んで、屋上の床に寝っころがる東。 本当なら、今すぐにでも瑞希達に見せたいが、そうなると竜二にも会う事になる。 昨日のあれから、ますます竜二に顔を合わせられなくなり、こうして屋上に逃げている。 結局、自分の事を好きだと言った彼に対して返事は出していない。 出してないというより、出さないようにしている。 だが、逃げてばっかりでは何も進展しないのはよく理解している。 悔しいが自分の方が、立場は低いのだ。 竜二のおかげで瑞希を説き伏せ、ここに居ることを許されているといっても過言ではない。 だからこそ竜二の機嫌を一番損ねてはいけないと心では分かっているが、どうしても拒否してしまうのだ。 「わかってる、分かっているんだ…!」 「なにが分かっているんですか?」 「うわぁぁぁぁ!!」 突如現れた瑞希に驚き悲鳴を上げた。 それに驚きつつも瑞希は笑って言った。 「もう、そんなに驚かないで下さいよ。こっちがびっくりするじゃないですか」 「あ、あぁ」 瑞希の対応に少し違和感を覚えとっさに本を隠してしまった。 瑞希は隣に座り、空を見上げた。そして東の方を見ずにこう言った。 「東さん…会長となにかありました?」 「っ!!??な、なんで…」 「あはは、隠さなくてもいいですよ。大体想像できますから」 「…あいつは誰に対してもあんな態度なのか?」 「うーん…東さん限定だと思いますよ?何があったんですか? 「え…」 確か、あの時、竜二が私を知っていると言った時、瑞希はそこにはいなかった。 なのに、どうして瑞希は、“私と竜二が過去に何かあったのか”を知っている? いや…幼馴染だから、本人からきいているのか… 私の人間不信もここまできたか そう思考を張り巡らせている東をしり目に、瑞希は話を続ける。 「にしても、会長も可哀そうですね。やっと思い伝えたと思ったら、相手には丸一日無視されるとか」 「…瑞希?」 「まぁ、会長もあんなに嫌がる事したらそりゃ嫌われるって気づかないのかね」 「み…」 「でも、東さんも東さんじゃないですかぁ?逃げてばっかで!そんなんだから、二週間もたっているのに情報一つとれやしない」 そう言って笑う瑞希を見て東は先ほどの違和感が増していくのを感じた。 瑞希は、あんな風にくだけたように笑ったか? こんな話し方だったか? 銀色だった彼女の髪が段々と黒く染まっていく… 「ちっ、やっぱ髪の色保ったまま交代はできないのかよ。めんどくさいな…」 瑞希に似た彼女は、怪訝そうに眉をしかめて、髪を見て舌打ちをする。 疑問が確信に変わり、確信は恐怖を煽る。 確かに、はじめは瑞希と話していたはずだ。 いつの間に入れ違ったのか? 目の前の女は一体誰なのか? 「貴様は誰だ!瑞希をどこにやった!?」 「ありゃりゃ。魔女様お怒りモード??」 そう茶化して、謎の女は素早く東を押し倒す。 瑞希とよく似た顔をしているが、彼女が絶対しないようなニヒルな笑いをしながら、東に顔を近づけてきた。 彼女の体系からは想像できないような力で押さえつけられ、東は身動き一つ取れない。 「まーまー。そんな暴れなさんな。俺様だって『瑞希』なんだぜ?」 「貴様、冗談もほどほどにしろ」 「ジョーダンじゃないんだなぁこれが。二重人格って聞いたことねぇ?」 「ま、まさか」 その反応に満足したのか、彼女はニタリと笑って、東を拘束する力を弱めてこう言った。 「俺様は、瑞希の別人格。通称『黒希』様だ。お初にお目にかかるぜぇ?魔・女・様?」 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |