イガグリ

三章


「…阿片」
「東さんよ。こっちにもいろいろ事情があるんだ。だがな、これだけは言っておく。協力するといったあの言葉には嘘偽りはない。
それに、図書館の事は知らなかった。信じてくれ」
東の目の前に立ち、まっすぐ彼女の目を見て阿片は断言する。
そんな彼の気迫に押されたのか、
「分かっているさ。お前は嘘が下手なタイプそうだしな」
と苦笑しながら東は言った。
「はは、よくそれは言われる。…でどうするんだ東さん」
「竜二が言っていた事は気になる。とりあえず行って調べてくる」
「そうか、俺の方ももう少ししたら家の書庫に入れるから、入れたらちゃんとした情報を渡せるはずだ」
強気に言って、阿片は生徒会室を後にした。
一人、生徒会室に残された東は魔術で図書室に行った。

竜二が言っていた事を思い出しながら、奥の方へ進む。
そして、一番奥の本棚の隅の方に古ぼけた本を見つけた。
手に取ってみるとかなり年期が入っていることが分かり、少し黄ばんでいた。
タイトルには『夜見桜ヶ丘の伝承』と書いてあった。
ここの地域一帯に伝わるお伽話を集めた文集みたいなものだった。
本をめくっていくとあるページが目に留まった。
そこのページの内容はこのようなものだった。



『 むかしむかし おおきな さくらのきの ちかくに ひとりの わかいひとがいた
  
  そのひとは ちしきがほうふで さまざまなことを しっていた
 
  むらのひとびとは そのひとを 【けんじゃ】とよび あがめた

  あるひ むらに ききんがおそった 

  けんじゃは むらびとを たすけるために ほんそうした

  だが しぜんの ちからには たちうちできなかった

  むらびとは かみに ねがった

  かみは むらびとに こういった

  このむらの いちばん うつくしきものを おおきな さくらのきに しばり さしだせと

  むらびとは うつくしきものを さくらのきに しばり さしだした

  でも ききんは おさまらなかった

  むらびとは また かみに ねがった

  かみは むらびとに こういった

  このむらの いちばの つよきものを おおきな さくらのきに しばり さしだせと

  むらびとは つよきものを さくらのきに しばり さしだした
  
  ききんは ますます ひどくなった 

  むらびとは なきながら かみに こんがんした

  かみは むらびとに こういった

  このむらの いちばん かしこきものを おおきな さくらのきに しばり さしだせと

  むらびとは けんじゃのいえに おしかけ さくらのきに しばり さしだした 』


そこから先は、破けていて分からなかった。
東はこれ以外に何か手がかりがないかと探したが、本があった痕跡はあったものの、実物は見当たらなかった。
とりあえず、その本だけを持ち出して図書室を後にした。
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