三章 その言葉に驚いたかのように後ろを振り返る竜二。 いつからいたのか分からないが、そこにいるのは確かに東だ。 東は、竜二ではなく阿片の方を向いて申し訳なさそうにしている。 状況が飲み込めずあたふたしてる竜二は阿片につかみ掛かって怒鳴る。 「ねぇ!どういうことなの!なんで!なんで!」 「竜二…それは」 「阿片を責めるな。私がお願いしたことだ」 「東!どうして!」 「だって、お前に直接聞いても、この間みたいにはぐらかすだろ?だから…」 「だから?だから!?阿片に頼んだの!?」 「そうだ。協力してくれそうなのは阿片ぐらいしかいなかったからな」 「ひどいやい…東は僕の事信じてくれなかったんだね」 自嘲気味に笑って、壁によりかかり座り込む竜二。東が自分の言ったことを信じてくれなかった事がショックだったらしい。 そんな竜二に阿片はいきさつを話した。 昼休み、理科室の前を通るとちょうどそこから出てきた東と出くわした。 そして、いつものように黄泉桜の事を聞き、そのあとは他愛もない世間をしていた。 すると東は、阿片が竜二達と幼馴染だという事を思い出して、竜二が過去に自分の話をしたことがあるか聞いてきた。 そんな話は聞いたことがないと話すと、どこか腑に落ちない様子だった。あまりにも思いつめる顔をしていたので詳しく話を聞かせてもらった。そして、今回の作戦を提案してみたのだ。 一通り話を聞いていた竜二だったが、何も言わず黙ってしまった。 東は、おそるおそる竜二の方へ近づき、しゃがみ込んで竜二に話しかけた。 「だました事は悪かった。だが、竜二お前だって私をだましていたのだからお相子だ。…なぁ、私はな見定めなければいけないんだよ。 …お前は、他にも何か知っているんじゃないのか?お願いだ。知っていることを話してくれ」 「…僕は黄泉桜の事は何にも知らない。だから、何も言わない」 「黄泉桜の事は知らなくても『私』は知っているだろ?」 「…じゃあ、言ったら僕の事好きになる?」 「なっ!?」 「僕の事、愛してくれる?この思い受け止めてくれる?」 「………」 黙ってしまった東をみて自嘲気味に笑って竜二は立ち上がった。 すると机の横に置いた鞄を持って、生徒会室の扉の所まで歩いて何かを思い出したかのように振り返った。 「あっそういえば、東、図書室の奥調べた?」 「…?いや」 「おかしーな。阿片から聞かなかったの?」 「どういう意味だ?」 「この間、先生が言ってたんだけどね。その奥の本棚には倉橋家から寄贈された、この街の伝承をまとめた本があるって」 「!?」 「なっ」 「最近忙しかったから真偽までは知らないけど、そういう話、倉橋家の長男である阿片君かーらーは?なにも聞いたことないし、小雪ちゃんからもそんな情報もらってないし?…本当に疑うべきなのは誰なんだろうね?」 そう言い残して、竜二は生徒会室から出て行った。 外では瑞希が待っていたらしく、彼女と話している声が聞こえてきた。 しばらくして瑞希が生徒会室に入ってくると、軽く会釈をしてから鞄を取って急いで出て行った。 開けっ放しにされた扉を閉めようと、東が扉に近づくと、不意に横から竜二が現れ、こう囁いた。 「東、目的をはき違えてはいけないよ。君ひとりに、この街の命運がかかっているんだから」 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |