三章 * 「ねー」 「………」 「ねーってば」 「……」 「おーい」 「…一体なんですか」 怪訝な顔して瑞希は竜二の方を向く。 やっと反応してくれ事がうれしかったのか、竜二は瑞希と向かい合うように移動し、近くにあった椅子に座った。 「あのね。今日は頑張ったんだからさ、もう帰ろうよ」 「だめです」 「むー!!」 「そんなにかわいらしく頬を膨らませても意味ないですよ?」 「けちけち」 竜二は、小さい子供が駄々をこねるように手足をばたつかせている。 しばらく瑞希は無視していたが、あまりにも竜二がしつこいので軽くため息をついて、机のまわりを片付け始めた。 その行動を見て目を輝かせながら、竜二も帰る支度をする。 その時、ガラッと音がしたかと思うと阿片が生徒会室の扉を開けて入ってきた。 そして、手に持っていた紙束を瑞希に渡した。 「これ先生からだってさ」 「はぁ…また訂正ですか」 「手伝おうか?」 「大丈夫ですよ。このぐらいだったら家でできますから」 「そーいってもよ瑞希。最近ちゃんと寝ているか?隈すごいぞ?」 「寝ているはずなんですけどね」 なぜでしょうねと言わんばかりに、竜二を見つめる瑞希。 竜二は、瑞希が持っていた紙束を取り上げて、自分の鞄の中に入れた。 彼の突然の行動に驚いたのか、しばらく目を瞬かせていた瑞希だが、その後怪訝そうに顔をしかめた。 「会長。なんのつもりですか」 「んー?これは僕がやっとくからという意味だけど?」 「大丈夫ですよ。そのぐらいすぐに出来ますから」 「だーめ。今日は大人しく早めに寝なよ」 「竜二の言うとおりだ。生徒会の仕事も大事だが、健康が一番だ」 最初は渋っていた瑞希だが、竜二と阿片に諌められて、諦めて「分かりましたよ…もう」と投げやりな感じで納得した。 そして、机の上に置いてあった資料を取り、「先生の所、行ってきます」と言い残して生徒会室を後にした。 生徒会室に二人きりになった状況がもどかしくなったのか、阿片は水筒を飲み始めた竜二に声をかけた。 「なぁ…竜二」 「何?」 「お前さ、前に否定したけど、やっぱり東さんの事好きだよな」 「――――――!!!」 「ちょっ汚い!」 盛大に水筒の中身を吹き出す竜二。 変なとこに入ったのかしばらく急き込んでいたが、治まると阿片に向かって叫んだ。 「な…ななななにを言ってるのかな!?君は!言ったよね!そんなことないって!」 「ほう…じゃ好きでもない女の子をお前は追い掛け回してセクハラまでしているんだな?」 「…そうだよ」 「本当か?」 「……」 「おいおい。ちゃんと目を合わせて言ってくれよ会長さん」 阿片は、笑いながら竜二の頬を手で挟み、自分と目を合わせるように顔の向きを変える。 その手を振りはらって距離をとる竜二。 相変わらずいつもの笑みのままだが、今の阿片の行動には不満があるようだ。 「……」 「黙秘か…じゃ、お前は怒らないな?」 「なにが」 「ん?俺が、東さんを好きになっ…」 阿片が言い終わる前に、彼の横を氷の塊が飛び、壁に刺さった。 そして、彼の首元には氷で作られた刃物が突きつけられ、少しでも動いたら触れてしまいそうな距離である。 いつもの笑みは崩していないがかすかに殺気を纏わせながら竜二は言った。 「……で?なんだって。僕聞こえなかったんだけど」 「おいおい。物騒だな竜二。お前が言ったんだろ?『好きじゃない』って。だったら関係ないだろ?」 「…君のそーいう所、僕嫌い」 「本当の事言わない竜二が悪い。俺が、嘘が一番嫌いなの知っているだろ?」 「………」 「で?どうなんだ?好きなのか?そうじゃないのか?…まぁ答えは分かっているが」 「…好きだよ。僕は東の事好きだよ。これで満足かい!?」 阿片から離れて顔を紅潮する竜二。 そんな様子をみて、阿片は顔をにやけさせる。 そして、ちょっと考え事をしてから言葉を発した。 「いつから?」 「は?」 「何時から好きなのさ?」 「そ…それは」 「…お前ひょっとして、東さんと面識あるんじゃないのか?」 「な・な…」 「小さいころにに会ったことがあるとか―?」 「……」 「ビンゴ!それはいつ頃だ?」 竜二が無言の肯定を示したことで、さらに問い詰める阿片。 そんな質問攻めに耐え切れなくなったのか、顔を紅潮させながら、竜二は叫んだ。 「もういいでしょ!なんなの!しつこいよ!」 「いやー気になっちまってさ。ほら、【サトリの目】を使って勝手に記憶をみるってもアリだけど、それは俺の性に合わないし。本人の口からきいた方がいいかなって思ったんだけどな…」 そういって、サングラスを取る阿片。 異形のものである翡翠色の瞳が現れた。 竜二は顔を顰めさせて、阿片をにらみながら言った。 「…人の記憶を見るとか悪趣味すぎて吐き気がするよ。わかったから、その目で僕を見ないでくれる?」 「そこまで言われちまうと悲しくなるんだが」 阿片は、サングラスをかけなおして肩を竦めた。 しばらく心落ち着かせてから、竜二は東と会ったのは十年前の夏休みだと言った。 その発言に少し首を傾げた阿片だが、納得したのか縦に首を振ってうなずいた。 そして、竜二の少し後ろに視線を向けて一言 「だそうだ。東さん」 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |