二章 阿片と小雪は一足先に帰っていき、学校の外に出られない東を仮の生徒会室に残し、瑞希と竜二も帰ろうと階段を下りていた。 「案外事が上手く運んだようですね」 「うーん、どうだろうね。一応協力するとは言ってたけど、どこまで情報開示してくれるか問題じゃない?」 「それもそうですね。それにまさか、タイムリミットがあるとは思いませんでしたよ」 日も暮れてきている為か、校舎は暗い。 だが、夕焼けの光が窓を通して校舎に入っているため、歩く分には支障はきたさない。 「僕ね、なんとなくだけど、倉橋家が何かやらかそうとしていると思うんだ。」 「…何が根拠で?」 「いや、さ。あくまでも推測だけどね。倉橋家って代々黄泉桜の管理者じゃないか。なのに、その桜の効力、『人柱』何一つ開示されてないわけでしょ?」 「でもそれは、危険性が無いからじゃないんですか?」 「そうかもしれないし、違うかもしれない。第一、黄泉桜が『奇蹟』だっていうのも隠してたわけでしょ?」 「…確かに」 そう言って黙り込む瑞希。 別に疑いたくはないが、可能性を考えれば万が一という事もある。 だから、黄泉桜について調べるのを彼らにまかせっきりというのも心配である。 小雪はいいとしても、阿片は倉橋家の長男、つまり次期当主であり、なんらかの事は知っててもおかしくないと思っていたが、今日の会話を見る限り、何も知らないようだった。まだ当主ではないから、何も言われてないのか、それとも知らないふりをしているのか… 「…そういえば、会長」 「ん?どうしたの瑞希?」 瑞希は一瞬躊躇する素振りをしたが、意を決したようにこう言った。 「もし、彼らが協力しないと言ったら、貴方はどうするつもりでした?」 「そうだね。まぁ暗示にでもかけて、その話の記憶を忘れてもらうつもりだったけど」 「…そうですか。あともう一つ聞いていいですか?貴方のその暗示…言霊は、どの範囲で通用するのですか?」 うーんとしばらく悩んで困った表情をしながら、竜二は瑞希に「あいつの替わりは無理だよ」と言った。 目論見が失敗したことに少しショックを受けたのか瑞希は力なく肩を落とした。 そんな彼女を、まるで変なものを見るような感じで見つめる竜二。 それに気づいた瑞希が眉をしかめると、竜二はいつもの笑顔に戻り、彼女の前を歩きながら言った。 「いやー瑞希は、東の件やけに積極的だなーって思ってさ」 「別に。ただ、さっさと出て行ってもらわないと後々めんどくさいですから。それに黄泉桜の件は、街の命運かかってますから」 「ほんと瑞希って責任感強いよね」 「そうですか?」 「うん。だから色々抱え込みそうで怖いんだ。心配になっちゃうよ」 「そう言うことなら…もう少し貴方が仕事をやってくれたら、私の負担がかなり減ると思うんですけどね」 そう言い返されて、顔を引きつらせる竜二。 自身に思うところがあるせいか、軽く咳払いをして瑞希に言った。 「そうそう、瑞希。さっきのセキュリティ解除の話だけど、まるで正式な方法じゃなきゃできるみたいな言い方だったよね?あれってどういうこと?」 それを聞いた瑞希は驚いたような顔した。 「気づいていたんですか…そのままの意味ですよ。『強制シャットダウン』を行えばセキュリティは解除できます。 ただそれと同時に、東さんの存在もバレかねないんですよ。だから―」 「最終手段、ってわけか」 「そういうことです」 そう言って瑞希は竜二を追い抜かして前を歩いていく。 その背中を見つめていた竜二はハッと思いだしたかのようにポケットを探し始めた。 そんな竜二を訝しげに見つめる瑞希。 しばらくポケットをあさっていた竜二は、しまったという顔する。 「どうしたんですか?」 「…携帯忘れた」 「はぁ…何しているんですか」 「ごめん!よかったら先帰っていいから!」 そう叫んで生徒貸室(仮)へ戻っていく竜二。 瑞希は走り去っていく竜二の背中に向かって叫んだ。 「下の下駄箱で待っていますから!!」 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |