二章 竜二が何とかして二人を止めようとしてあたふたしているが意味はなく、緊張感だけが増していく。 そんな状態の彼らを見ていた阿片は、一回ため息をついて、隣にいる小雪に耳打ちをした。 はじめ、訝しげに聞いていた小雪だが、パァと目を輝かせてうなずいた。 それを確認した阿片が袖の中から一枚の札を出して、小声で「雷轟鳴音符、急急如律令」と唱え瑞希達の方へ投げる。 刹那 ドゴォォォォン!!という音が部屋中に鳴り響き、同時に 「ひぃややややややや!」 と東の悲鳴が聞こえた。 音を合図に小雪が東に抱き着いたのだ。 その拍子に東は空間魔術で部屋からいなくなってしまった。 突然の事にしばらく唖然としていた瑞希だが、阿片を抗議するよう目で一瞥した。 かなり音が大きかったためか、竜二は両手で耳を塞いでいたが、しばらくして阿片に詰めより抗議した。 「…室内でなんてもの出しているんだい。僕まだ耳痛いのだけど」 「わりぃわりぃ。でもこうでもしないと、瑞希達止まらないだろ?」 「………」 「もー瑞希ちゃん、怖い顔しないでよ!ね?」 そう言って瑞希の顔をつまむ小雪。 瑞希は、顔をつままれながら軽くため息をついた。 「…今回は私が悪かったです。阿片さん、今後室内で札は使わないでください。心臓に悪いです」 「はーい」 そう話している間に、東が戻ってきて、 「…い・今のは、なんだ?おいサングラス。お前アレか?能力者…いや日本では契妖師っていうのか…それなのか?」 部屋の扉からコソコソと様子を伺うように覗きながら言った。 さっきの小雪の抱き付きが余程効いたのだろう、涙目になっている。 そんな彼女に阿片は、苦笑しながらさっき投げた札を東に見せた。 「いや、俺は契妖師ではなくて、陰陽師だ。さっきはこの『符』をつかって轟音を出したわけ。 この『符』では、契妖師のように多様な事はできないが、代わりにいろんな『属性』を持っているんだ」 「ほーう…こんな紙がねぇ」 魔女様は符に興味を持ったらしい。 「ちなみに竜二が契妖師なんだ」 「妖怪と契約して戦うとか言うけど、生まれてこのかた妖怪なんて見た事無いけどね」 二人の会話は大して気に留めていないようで、東はまじまじと符を見つめていた。 だが、本題へ戻ろうと、瑞希を一瞥してこう言った。 「それでさっきの話だが…本当に来年でないとだめなのか?」 その問いに瑞希は黙って頷いた。 東はしばらく唸っていたが、ふと思い出したかのように 「そうだ!さっき言ってた奴を呼べば良いんじゃないか?」 「さっき言ってた奴って…まさかあの人の事ですか…?」 そう言って顔を引きつらせる瑞希。 阿片達も心なしか顔が引きつっている。 竜二に至っては、すごいしかめ面になっている。 「??どうしたんだ?皆してそんな顔をして?てか、そもそもそいつはどこの誰なんだ?」 「瑞輝はな、瑞希の双子の兄だ」 そう阿片が東の問いに答える、 東はそれを聞いた瞬間に瑞希の方を向いて、目を輝かせながら言った。 「だったら、猶更都合がいいじゃないか!!双子の兄なんだろ?この学校にもいるんだろ?」 「あんなのを兄とは認めたくないです。それに頼めませんから」 「そうそう、そもそもあいつここに居ないから」 「えっ…そうなのか」 そう言ってがっくりと肩を落とす東。 じゃあどうすれば良いんだよとボソボソと扉に話しかける有様である。 そんな彼女を見ながら竜二は東に質問した。 「そういや、気になっていたんだけどさ、今十一月だよ?今年ってあと一か月で終わりじゃん」 「それもそうですね。なんでこんなにギリギリに動いてるんですか?」 「えっ…あっそれは…その…」 「まさか、調べたら『 』が案外近いことに気づいて急いでここに来たとか?」 「うっ」 「魔女さん、最悪お得意の空間魔術で、桜引っこ抜けばいいとか思ってたり」 「あうっ」 「でも、奇跡の魔女たる東お姉様がそんな野蛮な事はしませんよね?ちゃんと策があってのこの時期なんですよね?」 「………」 東は黙り込んでしまい、ドアの陰に隠れた。 彼女の様子を見てあきれた瑞希が、竜二と小雪を見てこう言った。 「会長、小雪ちゃん、東さんはどうやらいっぱいハグしてもらいたいようです」 どうやら、東にお灸を据えてやろうという魂胆らしい。 瑞希の言葉に反応して、恐る恐るドアから顔を出す東。 「へっ…?み・瑞希…?」 「なので、どうぞ好きなだけしてあげてください」 そう言ってほほ笑む瑞希。 後ろに般若が見えるのは気のせいだろうか。 「合点」 「了解です!」 「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」 いつもの二人からは、想像がつかないような速さで東に抱きついていった。 そして本日何度目かの東の悲鳴が放課後の校舎に響き渡った。 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |