二章 * 「なるほどな…事情はよくわかった」 そう言って近くの椅子に座って腕組みをする阿片。 放課後、仮の生徒会に集まった、阿片達に先日の槍の事件と東について全て(・・・)話した。 下手に隠し事して後々にばれる方が厄介、そして協力者は多いに越したことはないという竜二の判断によるものだ。 その横に座った小雪が首を傾げながら言った。 「でも、数多ある『奇蹟』の中から、今回黄泉桜が調査の対象になったの?」 「うーん…どうしてと言われても…私にも良く分からない。ただ、アレ調査をしてくれっていう依頼があったんだよ。 まぁ…あとは『 』がせまっているか…ら…かね?」 仮の生徒会室に置かれているソファーは完全に東の定位置になっているらしく、彼女は体操座りをしながら、小雪の質問に答えた。 どうやらあまり覚えていないらしく、東は度々考え込むような動作をしている。 「なんですか…その『 』って」 「『 』ってのは、『奇蹟』が発動できる年の事だったよな?魔女さんよ」 東の代わりに阿片が瑞希の質問に答える。 その阿片の答えを肯定するかのように、東はうなずき続きを話す。 「あぁ、『奇蹟』というのは怪奇現象だって事は前話しただろ?大抵『奇蹟』はその土地の伝説やおとぎ話がモチーフになっているんだ。 たまたま、今回は黄泉桜という桜の木が『奇蹟』だったわけで、場合によっては、道具や土地そのもだったりするらしいぞ」 「そこは断言しないのですか」 「だって、私記憶ないし、ほとんど文献引用だもん」 「なにかわいらしく言ってるんですか」 瑞希にツッコまれむくれつつ話を続ける東。 『奇蹟の 』はある時と、無い時がある。黄泉桜は前者であり、それがたまたま今年だったらしい。 この『 』が過ぎれば奇蹟は、しばらく発動できなくなってしまうらしい。 「つまり、東はその『 』までに黄泉桜を調べ終えなくちゃいけないってこと?」 「そういうことだ。『奇蹟』の力はとてつもなく強い…『人柱』が【人間】だったら洒落にならんからな」 「…『人柱』って生贄のことですよね」 「それってもしかして、使いようによっては【人間】が『人柱』だったら、最悪街の住人全員が生贄ってことも、あり得るということなの?東お姉様」 そういう小雪の質問に無言で肯定する東。 街全体が生贄となる… そんな考えたくもない可能性があり得るという事に、戸惑いを隠せない瑞希達。 普段特に気にしていなかった黄泉桜… それが、もしかしたら自分たちを殺すかもしれないという恐ろしさ… 「まっ。あくまでも可能性の話だがな!確証はないし、もしそうだったとしても、私が必ず破壊するから安心しろ!」 空気の重さに耐え切れなくなった東が、皆を安心させようとしたのだろう。 いつもより明るい声でそう言った。 しかし、そんな東を見つめながら瑞希はぼそりと言った。 「安心しろっていわれても、貴女ここに閉じ込められているんですよ?説得力無いです」 「俺も瑞希に同意」 「お前らぁ!!」 「まぁまぁ、二人ともそんなはっきり事実を言っちゃったら、東がかわいそうだろ?」 「竜二!それフォローになってないから!」 竜二の言葉がとどめになったらしい。 東はむくれてソファーにうつぶせになってしまった。 そんな東をみてやれやれという素振りをしてから、竜二は阿片に向かってこう言った。 「で、君たちは協力してくれるの?くれないの?僕としては、関係者である君たちが協力してくれれば、まるっと綺麗に解決できると思っているのだけども?」 「あ〜…まぁ協力はしてもいいぞ?黄泉桜の管理者の家として放っておけないからな?小雪」 「…そうだね。お兄ちゃん」 「うんうん。これで協力も得られたことだし、あとは東がいつここから出れるかって話だね」 自分が立てた策が上手くいった事に満足しているのか、彼もいつもよりテンションが高い。 しばらく自己満足に浸っていたが、ふと思い出したかのように瑞希に聞いた。 「それで、セキュリティの話はどうなったの??」 「そのことですが…」 瑞希は目をそらしながら言った。 彼女の態度を見る限りあまり事はうまく進んでないらしい。 管理しているのは黒月家だが、停止や運動のエネルギーの主導権は街の町長、役員会議が持っている為、 申請の用紙を貰うのにもかなりの時間がかかるらしい。 「はぁ…こういう時にあの人の魔術が使えれば便利ですよね」 「あいつの話なんてしないでよ。それにあいつが力貸すとは思えないけど」 「大丈夫、大丈夫よ。会長さんが頑張って奉仕したら、きっとあの人も動いてくれるよぉ?」 「そうそう。 ってなんやかんや竜二には甘かったしさ」 「わーわー僕何も聞こえない!聞こえない!!」 そう叫んで耳に手を当て叫ぶ竜二。 彼らの会話をうつぶせになったまま聞いていた東が、ようやく起き上がり瑞希に聞いた。 「で、結局いつぐらいに私は此処から出れそうなんだ?」 その問いにしばらく考え込んだ瑞希は、小声で来年と言った。 東はその答えにしばらく固まっていたが、次第ににわなわなと震えだし… 「ふっざけるな!!!!さっきの話を聞いていなかったのか!この『奇蹟』には『期限(タイムフレーム)』があるんだぞ!それも!今年だぞ!こ・と・し!それを…貴様は…来年まで悠長に待っていろというのか!」 「仕方ないじゃないですか!どれだけ頑張っても 手続きでセキュリティ解除するのには、それだけの時間がかかるんですよ!」 東が叫んで怒鳴り始めると、瑞希もまた怒鳴り返した。 そんな女子陣の口喧嘩にもう慣れたのか、また竜二が仲裁に入る。 「まーまー二人ともそんなに怖い顔したら、せっかくの美人顔が台無しだよ??」 「うるさいです。会長は黙っていてください。この人一回立場ってものを教え込まないと」 「ほぉう?まさか瑞希。お前が私に敵うとでも思っているのか?」 「そうですね…力の差は分かってますよ。でも、今の貴女は実体化している。…勝ち目はありますよ」 争いをやめるどころか、お互いを挑発する二人。 ただならぬ空気が部屋中に漂う。 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |