二章 * 「はぁ…また瑞希に怒られてしまった」 ため息をついてソファーに座る東。 あの珍事件の後、瑞希に「校内での緊急時以外での空間魔術の禁止」を言い渡されてしまった。 もちろん抗議はしたのだが「他の人に見つかって、貴女の存在が知られてもいいのですね」と脅されてしまったので渋々承諾することにしたのだ。 今の私の心境を一言で表すなら、 まことに遺憾である…だ。 その瑞希は、次の授業の準備があると言って、さっきここを出て行った。 「…暇だ!暇すぎる!!」 そう叫びソファーの上を転がった。 なにか暇つぶしになるものがないかと周囲を見渡していると東はあることに気が付いた。 先ほどまで瑞希が作業していた机の目の前の所で竜二が寝ていたのだ。 あの騒ぎの中でよく起きなかったな…と思わず感心した。それ程熟睡しているということなのだろう。 「寝ている顔は、かわいいもんだな」 と竜二を覗きこむ。 会ったばかりでこんなことを言うのは本当に申し訳ないのだが、正直竜二の事が苦手である。 【触れられる事】に慣れていない自分にとって過剰なスキンシップを取ってくる竜二が恐ろしくてたまらないのだ。 そして、何より彼の笑みが気持ち悪くて仕方ないのである。 何を考えているのか分からない、そう思ってしまうのだ。 これは瑞希に対しても同じ感情を持っている。彼女も何を考えているのか分からない。 この数日間見ていて、彼女は自分だけではなく、竜二や他の同級生に対しても、どこか一線引いているように感じた。 しかし、なんとなく彼女と竜二の間には、他とは違うつながりがあると考えての『恋人』発言だったが、それは今朝見事に打ち砕かれた。 自分が今こうして実体化し閉じ込められている事は、不便で仕方がないが、意外に嫌とは思っていない。 逆に、もう少しこのセキュリティとやらが、高性能ならば『不死』の魔術も打ち消してくれるのでは?と最近はそう思うようになってきている。 もし…もし本当に、死ぬ事が叶えば…とかなり物騒なことを考えていると… 「…東」 「ヒィィィ!お…起きてい……ない…?」 突然名前を呼ばれて、東は慌てふためく。 しかし、それは寝言だったらしく竜二は寝息を立て寝ている。 その様子を見て安堵し、寝ている竜二を背を向けてまたソファーに行こうとした、 その時 「東……やっと…君に会えた」 再び彼の声が聞こえた。 バッと振り返るが、それもまた寝言だったらしく、変わらず彼はぐっすり寝ている。 東は、彼が起きていない事に安堵するも、彼の寝言が引っ掛かりしばらく竜二を見つめていた。 今の寝言の意味を聞くために彼を起こすか起こすまいか悩んでいた東だったが、 「かぁぁぁいちょぉぉぉぉぉ!!!いないと思ったらここで寝てたんですかぁぁ!!」 と勢いよくドアを開けて瑞希が入ってきた。 そして、手に持っていた教科書を思いっきり竜二に叩き付け、そのまま彼を引きずって教室を出て行ってしまった。 しばらく呆然としていた東だが、ドアに背を向けて自分に言い聞かせるようにつぶやいた。 「……………ソファーに行こ」 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |