二章 * 「……まさか、付き合っていないとは驚きだ」 「…またその話ですか、二度も言わせないでください。私たちは単なる幼馴染ですから」 「そうだよ!誰が、こんな頑固な暴力女と付き合うと思う!?」 「…私だって、こんな無能で貧弱、変態、低身長、もやし小僧と付き合うもんですか」 「瑞希…そこまでいう…?」 瑞希の言葉が心に刺さったようで、机に突っ伏す竜二。 結局、東の爆弾発言を訂正している時間に予鈴のベルが鳴り、その場はお開きとなった。 先日の騒動のせいで生徒会室は改修工事に入っており、その間は他の空教室を仮の生徒会室として使うことになっている。 そこで、黄泉桜についてもう一度話し合うため、放課後また集まる事にした。 ちなみに、今は昼休みである。 「…あそこまで否定するのか…それにしても、放課後まで私は暇だな…」 「…あんまり生徒会室内をうろちょろしないで下さいよ」 「はいはい…」 そういって東は仮の生徒会室の隅あるソファーに寝っころがっては起き上がるしぐさを繰り返していた。 その反面、瑞希は先日の騒動と日頃の竜二の怠慢のせいで昼休みも生徒会の作業に追われていた。 「そういえば、東さんは黄泉桜について調べる前は何をしてたのですか?」 ふと思い出したかのように、作業しながら瑞希は東に質問した。 それに対し、東は一言こう言った。 「覚えてない」 「……?覚えてないってどういうことですか」 作業していた手を止めて、瑞希は東の方を向いた。 「言葉の意味そのままさ。私には一年以上前の記憶がないんだ」 「記憶喪失…ですか?」 「まっそんなところだろ。だから、ぶっちゃけた話、なぜ自分が『奇蹟』の調査を続けてるのか分からないのさ」 そう言って自嘲気味に笑う東。 警戒心が薄れてきたせいなのか、はたまた単なる暇つぶしなのか分からないが、ぼちぼち東は自身の事を語り始めた。 この記憶喪失が一年ごとに起こっているらしい事そして、『東』という名前さえもたまたま持ってたメモを見て自分の名前を認識しているという事…東はまるで他人事のように話していった。 「…本当に一年以上の前の記憶は無いの?」 東の話を黙って聞いていた竜二は起き上がって口を開いた。 その質問に対して東はまた自嘲気味に笑って首を振った。 「…うらやましいですね」 「何がだ?」 「記憶喪失が、ですよ。だって、貴方は何も覚えてなくてすむ。苦しみも悲しみも何もかも忘れて無かったことにできるという事じゃないですか」 「そんなことないよ。たとえ忘れてもそれが『無かった事』になんか絶対になるもんか」 いつになく強気に言って再び机に突っ伏す竜二。 「まぁ…竜二の言うとおり、記憶が無くなったからと言って、過去が消えるわけではない。もし、そうでなければ私の存在など、とっくに『無かった事』になっているのだから」 東はそう言うと再びソファーに寝転んだ。 そして、一回指を鳴らした彼女の手にはいつの間にか雑誌が現れた。 さらにもう一回彼女は指を鳴らした。 今度は、ペットボトルが彼女のそばに現れた。 「いやいやいや、ちょっと待ってください。待ってください!なにくつろいでいるんですか!いや、くつろぐのは構わないのですが、それ、どっから出してきたんですか!」 そうツッコミを入れる瑞希。 だが、東にはそのツッコミが理解出来なかったのか、再び指を鳴らしてペットボトル出し、瑞希に投げた。 「おっとと…ありがとうございます…じゃない!違う!私は、ほしいとは言っていません!!」 瑞希は、叫びながら東にペットボトルを投げ返す。 突然投げ返された為にうまく取れず東の顔面にヒットする。 かなり痛かったのだろう、東はしばらくソファーの上で悶えていた。 一分半ぐらい経ってから、やっと瑞希に抗議の声を上げた。 「何するんだ瑞希!!痛かったのだが!すごく痛かったのだが!なんだ?種類?か?ペットボトルの中身が気に食わなかったのか!!」 複数回指を鳴らす東。 するとさっきとは別の種類ペットボトルがたくさん出てくる出てくる… 瑞希は唐突に出てきたその山を見てしばらく唖然としていた。 「ほら、好きな種類選べ!いろいろ出してみたが、瑞希が欲しいのあるか?」 東はにやりと笑い、なぜか自信満々である。 足元に転がってきたペットボトルを拾い、瑞希は顔をひきつらせながら言った。 「東さん…これ一体どっから持ってきてるんですか?」 「ん?知らん。ただ、飲み物はたしか、購買にあったなーと思って出してるだけだが?」 そう言って出したペットボトルを開けて飲み始める東。 瑞希がそれを取り上げて何かを言おうとした瞬間、教室の扉が勢いよく開けられ、阿片が姿を現した。 「大変だ!瑞希!購買の飲み物がいきなりなくなった!!それも大量に!」 「あぁ、もしかしてこれの事か?」 「早く元の場所に戻してください!!!」 お昼休み、突如購買から大量のペットボトルが消え、そして再び現れたという珍事件が起きたと、しばらく噂が広がった… ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |