純情可憐な恋をした




恋するとはつまり、見つめることである。いつだったか本で読んだ言葉を思い出したら、胸が甘く痛んだ。


私が見つめるのは彼、雲雀恭弥。風に揺れる黒髪に、切れ長の瞼に、すこし不機嫌な唇に、凶器を握る白く美しい手に、触れてみたいと思ったことは数知れない。

けれども、それは一つとして叶うはずのない夢だと知っているから、私は、この瞳に映った彼の光と影を永遠に追い続けるのだ。確かな手触りは無くとも、それが私にとって彼を所有することのできる唯一の手段だから。

ほら、今も。

物陰から覗くと、ちょうど彼が隣に立つリーゼントの男に話しかけているところだった。彼は男の返答を聞くと、一瞬眉をひそめて、でもまたすぐにふっと口元を緩めて、至極愉快そうな笑みを浮かべた。

(わあ、良い顔見ちゃった)

遠くから見ていても分かる不敵な表情に、私の胸は高鳴った。冷たい瞳が理性的に見せているだけで、彼は今、本能を剥き出しにしているのだ。

孤独を愛する彼がこれほどまでに強い関心を寄せる対象は、非常に限られている。彼の視野に入り、ましてやその唇に笑みを浮かばせるなんて、男の口が告げたのは並々の事件ではないのだろう。人かもしれないし、人ではないかもしれない。けれどそのどちらだったとしても、彼の興味をそそるというだけで、私を妬かせるには十分すぎる。


あの涼やかな瞳に真っ直ぐ見据えられたら、一体どんな気持ちがするんだろう。何度も何度も、そんなことを想像した。
一匹の草食動物でしかない私に対して、彼はどんな表情を示すだろうか。

嫌悪、侮蔑、怒り、込められる感情がマイナスであったって構わない。ただ、他ならぬ彼の瞳に捉えられたなら、きっと私の心臓は止まってしまうだろう。目が合ったら咬み殺されるかもしれない、けど、その瞳に私の姿を映してくれるなら、それもまた本望かもしれない。



私はいつもこうやって、物陰からこっそり彼のことを見ている。
でも、校則もきちんと守っていて特に目立つ問題を起こしたこともない平凡な生徒の私が、多忙で他人に興味のない風紀委員長の目に留まることなんて、たぶん永遠に無理だろう。

ずっと見つめていたらいつの日か振り返ってくれる、そんな淡いおまじないも、もう信じることはできない。このままでは、いつまでも気づいてもらえない―――

だから。


「明日からスカート3cm上げよう。あとパーマ」


優等生だった私がせっせと校則違反を犯すようになったのは、その日からでした。


純粋可憐な恋をした
(早く咬み殺してくれないと、私はどんどん悪い子になってしまいます)





[*prev] | [next#]

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -