未来を担う肩



凪ちゃん、と私は彼女のことを呼んでいた。

母親は女優らしく、彼女は母親似なのか綺麗な整った顔立ちをしていた。

本当の父親のことは覚えていないくらい昔に離婚しているらしく、父親というものがよく分かっていないらしかった。

浮世離れした雰囲気を持っていてクラスにもあまり馴染んでいなかった。

未来を担うことをせず、立ち止まってばかりで一歩を踏み出すのが小さく、またゆっくりであった。

なぜ全て過去形であるかというと、


その彼女が行方不明になってしまったからだ。



担任が彼女の名と、彼女が事故に遭ったことを告げたとき、私は一瞬 誰のことか分からなかった。

理解すると私は驚き、慌てて彼女の家を訪ねた。








「凪なら療養させるために田舎にいるのよ」


凪ちゃんの母親は綺麗な顔を少し心配そうに歪ませてそう言った。

嘘だ、と思った。

けれどそれを確認するすべもない上に、確認したところでどうしたらいいかなんて分からない。

周りは早々に凪ちゃんのことを忘れ、教室から凪ちゃんの机も消えた。


「凪?誰それ?」


そんな反応が返ってくるたび、私は未来へと進む足が重くなっていった。


そんなときだった。
私の前に彼女が再び現れたのは。



















「んぁ?こいつかー」

「え、」

「犬…おどかすな。めんどいから」

「あの…?」


この辺では見ない制服を着た男子2人が私の前に立ち塞がった。
1人は、けん というらしい。
もう1人の方が眼鏡を直しながら私の名前を確認した。


「やっと見つけた。めんどかった…」

「あのブス女のせいらー!なんで俺らがこんなことしなくちゃなんないんらよ!」

「犬、うるさい。…骸様から言われただろ?」


うぐっ とつまるけんさん(?)とため息をつく眼鏡さん。
いや、あの。何用ですか?
つーか私に用なの?初対面ですよね?

訝し気に2人を見ていると、声がした。

「犬、千種…その人を困らせないで……」



「………なぎ、ちゃん?」


2人と似たような雰囲気の制服に身を包んでいるのは、髪が短くなっているが確かに凪ちゃんで。

雰囲気が、変わった。
「……久し、ぶり。元気…だった?」

「うん……凪ちゃんも?」


おどおどとした、自信なさ気にぼそぼそと話す話し方は変わっていないようだが。しっかりと前を、未来を、見据えている。


「あの…助けて、もらったの……貴女にも。だから、お礼を言いたくて…」


はっきりとは言わなかったが事故に遭って、ある人に助けてもらって、言えないようなことがあって、それらが片付いたから私に伝えにきたらしい。


「……ありがとう。いつも、守ってくれていて…」


凪ちゃんはもじもじとしながら言った。


「もう、大丈夫、だから。あの」

「また、会おうね」

「え?」


私は凪ちゃんの言葉を遮りなるべく力強く言った。


「……うん。また、」


凪ちゃんは小さくそう返すと男子2人を引き連れて私に背中を向けた。

今まで見たことがない凪ちゃんの後ろ姿。
しっかりと、未来(まえ)を見据えた姿。


私も、進まなければ。




















未来を担う肩




私が貴女の未来を担っていたと思っていたら、いつの間にか貴女が私の未来を担っていたんだ…


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