幸福の循環
「よっ、名前」
軽い挨拶で窓から部屋に侵入してきたのは私の後輩兼彼氏のフラン。
可愛い顔のくせして腹の中は真っ黒。
頭には同僚のベルから貰った(というか強制の)蛙の被り物。
着替えの最中だった私は慌ててしゃがんで、ソファーの裏に身を隠した。
「ちょっと!窓から入って来ないでよ」
「うわ、先輩下着姿じゃないですかー。ちょ、ヤバ…」
「人の話を聞け、エロガエル!!」
普通に回ってソファーの反対側に来たフランに、近くにあったクッションを手にとって思い切り投げつけてやった。
もう、何なのコイツ!!
「ゲロッ。…怒んないで下さいよー。ミーだって先輩が着替えてると思ってなかったんですー」
「なら、早く部屋から出てってよ!」
それは無理ですー、とあっけなくフランに捕まった私。
温かい腕の中、口先だけで抵抗しないのはきっとフランが好きだから。
「先輩冷たい…」
「冷え性なの。嫌なら離れればいいじゃない」
「嫌ではないですよー。ひんやりして気持ちいいです」
触れた箇所から伝わる体温。
恥ずかしくなった私は、彼の胸に顔を埋めた。
鼻腔に広がるフランの香り。
「何甘えてるんですかー」
「甘えてない」
ぎゅっと抱きしめ返すと、「生意気」とフランに口付けを貰った。
髪を撫でる彼の手に心臓がとくとくと反応する。
「フランなんか嫌いだもん」
「奇遇ですねー、ミーも名前が嫌いですー」
つれない口調は愛情の裏返し。
どんなに突き放したって、離れられないのはお互い様。
君無しじゃ生きられない。
「バカ」
「どっちがですかー」
「嘘、大好き」
意地悪な唇に、嘘つきな唇が重なった。
幸福の循環
君と過ごす毎日が私の幸せ
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