花と言う花を散らして



学校の帰り道、名前に連れられてちょっと寄り道。
辿り着いた先は、小さな公園だった。そこの遊具は申し訳ない程度のブランコがあるだけで、あとは少し高めの木が1本だけ植えられていた。
ここは名前の家の近所で、小さな頃から何度も来ているらしい。

その木を見上げてみると、細い枝にはぽつぽつと白い花が咲いていた。
その花はまるで、

「蓮…」
「そうそう、蓮に似てるでしょ?木蓮って言う花だよ」
「モクレン」
「んー、今年はあんまり咲いてないなぁ」
「そうね…」
「満開の花、クロームちゃんに見せたかったんだけど、ごめんね」

寂しげに彼女は謝った。
そんな顔をしてほしくなくて、鞄の中から三叉槍を取り出した。

「クロームちゃん?」

槍で地面をトン、と軽く叩いた。
彼が見せてくれた術、花に似ていたから、念じるのは容易だった。

「わぁーっ!すごいすごい!」

木には溢れんばかりに、白い花が咲き誇った。
名前は食い入るように見つめている。

「そうそう、こんな感じ!ね、綺麗でしょ!」

クロームちゃんが創ったんだから当たり前だけどね、と私に笑いかけた。
私は頭を振った。

「でも、所詮まやかし物だから、本物には叶わない」

言った瞬間、後悔した。名前の表情が笑ってるけれども、困ってるようにも見えた。
せっかく、笑顔に出来たのに、それも所詮──

「あの、名前…」
「あ…明日、空いてる?」
「…うん」
「明日の、そうだね、2時…うん、2時にまたこの公園来てくれる?」




(いない…)

2時、5分前。公園に足を踏み入れた。まだそこにはだれも居なかった。
あのモクレンの木の下に歩み寄った。花の数は相変わらず少なく、もしかしたら昨日より減っているかもしれない。
地面には白い花びらがいくつか落ちていた。

はらり、また落ちてきた。赤い花びら……赤?


「はいっ」
「え?」
「えいっ、やぁっ」

振り返ると名前がいた。かけ声と共に名前の手からは次々と色とりどりの花が溢れ出てくる。

それが止まったかと思うと、両手を合わせてモジモジと腕を動かした。

「んー、じゃあいくよ!ちゃんと見て…あぁっ!」

服の裾から、ごっそりと大量の花が落ちてきた。名前は慌ててしゃがみこみ、それらをかき集め始めた。けれどやがて諦めたのか手を止め、私を見上げ笑った。

「本当はね、ぶわーって花を撒き散らす予定だったんだけど…失敗しちゃった」
「でも…すごかったよ」
「…えへへ」
「名前?」
「笑ってくれたね!」
「えっ?」

名前は両手に持てるだけの花を持つと、再び同じ視線に立った

「確かに花はどっちも本物じゃないよ。でも、クロームちゃんと私が一緒に花を見たってことは事実でしょ?」

言い終えると持っていた花をおもいっきり上へと舞い上げた。
ひらひらと、偽物の花は舞い降りる。

「…そうだね」
「ねっ!」



今、私の体が暖かく包まれてるのも、確かな事実。




花と言う花を散らして




「でもね、私は毎日花を見てるわ…名前と一緒に」
「えー?そうだっけ?」
「ほらここ」
「ど、こっ?!」

ほんのり赤みのかかった名前の頬を撫でる。

「名前が笑うと、花が咲いたように、暖かい気持ちになるの」


名前の手にあった真っ赤な花より、赤くなった名前の顔。

やっぱり、名前が一番綺麗ね。





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