暗がりの夏-3-

「おはよう、水原」

「おはよ、横田」

「お前、顔色悪くないか?」

ディスクに鞄を置いたところで、横田にそう言われた。
確かに、少しだけ身体が重い。
風邪でもひいたかな、と額に手を当てたところで、あたりが騒がしくなった。


「おっ、今日は仁美さんも一緒か」

「…本当だ」

急にこみあげてきた吐き気に、夏衣は横田に声をかけトイレへ向かった。


「…っげほっ、…はぁ、はっ」

胃の中のものをすべて吐き出して、トイレを出る。
ポケットからハンカチをだし、洗面台で手と顔を綺麗に洗った。
口の中が嫌な味やにおいで、もう一度吐き気がこみあげる。
手で器を作り、口の中をゆすいだ。


「悪阻?」

「…和泉部長」

軽く笑うように言われ、夏衣はハンカチを床に落とした。
心のない一言だ。
絶対にありもしない、希望。


「お前と私の子なら可愛いだろうな」

男の言葉に夏衣は男を押しのけて、トイレを出ていった。
吐き気と頭痛が襲ってきて、ああ、これは心因性のものか、と苦笑する。
ディスクに戻り、腰を下ろすと横田が心配そうに覗き込んできた。


「うわ、さっきより顔色悪いぞ…、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。心配すんな」

「駄目だったら帰れよな。お前細いから余計やばそうに見えるわ」

「ははっ、筋トレでもしようかな」

「肉食え肉!」

パソコンに向き合えばいやでも仕事の気分に変わる。
同僚の心配に軽口で返しながら、夏衣は仕事と向き合った。

途中、仕事用の携帯が鳴り、メール画面を開く。


『ごめん。傷つけたね。お詫びをする。いつものホテルで』

メールの言葉は、彼が自分の身体を求めていることが伝わってくる。
表面上で謝っているのだ。
表面上のお詫び。
夏衣はぎゅっと唇をかみしめ、携帯を閉じた。
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