ココロツムギ-3-

「…ツムギ、おはよう」

キッチンと言うよりも、台所と言った方が正しいそこで、母から作ってもらった肉じゃがを温める。
それからお米を炊いて、お吸い物も作った。
先生の声に振り向いて、返事をする。
眠そうにあくびをした先生の頬にはひげが生えていた。


「顔洗ってきなよ。…オッサン」

「煩い。中坊」

「高校生だって」

睨みつけながらそう言うと、先生は軽く笑いながら朝食をとる和室へ入った。
手伝いもせずに悠長に座って新聞を読み始める。
…俺はどこの幼妻だよ。
そう心の中で突っ込みながら、用意した食事をお盆に載せて運んだ。


「いただきます」

先生の声と一緒に手を合わせる。
料理のうまい母の肉じゃがはとてもおいしい。
俺の作ったお吸い物もなかなかの出来だった。


「ツムギ、部活、何時に終わる?」

「一時」

「迎えに行く」

「…ほんと、珍しいね。どうしたの」

「今の主人公が高校生だから、ツムギ観察したら、なんかアイディア湧くかなって思っただけだ」

「人をネタの材料にしないでくれる」

俺が拗ねたようにそう言えば、先生はごちそうさまとだけ言って、新聞に目を戻した。
なんて傲慢なんだろうか。
先生の食器と自分が使った食器を重ねて台所運ぶ。
着替えは済ませてあるから、食器を洗って洗面所に向かった。


「支度出来たか」

「うん」

先生が車の鍵を持って、俺の様子を見に来た。
鞄を担いで玄関へ向かう。
嫌なくらいの青空を見上げて、うんと背伸びした。


「ツムギ、迎えもここでいいか」

「うん、大丈夫」

車から下りて、先生に手を振る。
少しだけ笑みを浮かべた先生は、すぐに煙草を取りだした。


「ツムギ」

「なに?」

「行ってらっしゃい」

「…行ってきます」

先生は俺が戸惑ったようにそう答えたのを聞いて、意地悪な笑みを浮かべ車の窓を閉めた。
ひらひらと揺れるてのひらを見て、俺もその手に返事をする。
校門をくぐり、真っ白な校舎に入って行った。
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