Gerbera-2-
「道長様…、どうして…」
「あー? ミマワリだよ。サボってる奴とか、盛ってる奴とかを取り締まるためになァ」
「風紀委員長様が…煙草ですか」
「いいだろ。つか、あいつだって吸うじゃねぇかァ。見逃せ」
あいつ、と言った所で、道長様はニヤリと笑う。
僕はこの方は正直にいうと苦手だ。
鋭い瞳に睨まれれば動けなくなるし、その、さっきのような事になってしまう。
そんなことはどうでもいいのだけど。
「ちかとは、うまくヤってるのか?」
「…あなたには、カンケイありません。道長様には」
「お兄様が、こんな子猫ちゃんとネンネしてると思うと面白くてね」
「…品のない方」
「品のないのは、あんただろう? …保健室で、セックスなんて、AVみてぇじゃねえか。それこそ品がねぇよ?」
「…」
三日月の様に歪められた目に、ゾクリとあの心地よい感覚が背筋を伝う。
きゅっと自らの腕を握って、その感覚を忘れようとした。
鷹臣様は、鷹誓様の弟で、声だって少しだけ似てる。
だから、だから…、鷹誓様から与えられる…あの感覚を思い出した。…それだけだ、きっと。
「品が、ないなんて…」
「んー? 傷ついたか」
「そんなこと、ありません。あなたに、僕を傷つけるなんてできない…」
「情緒不安定だな…」
鷹臣様は、そういうと僕の頬をするりと撫でる。
いきなりのことで、振り払えずにいれば、…それから…。
「…ッ!!」
キス、された。
ひらひらと手を振って去っていく鷹臣様。
がたん、と本棚に凭れかかれば、自分の体が火照っていることに気付く。
熱い、熱くて、堪らない。
触れられた頬が、唇が…。
「なに、…なにっ、これ…、こんなの、僕じゃない…っ」
そうだ。…僕は、鷹誓様のことしか、考えたくない。
僕の意識は、常に鷹誓様だけのものだから。
だから、あの人の事は考えてはいけない。
「…教室に、戻らなければ」
ぐらぐらと揺れる思考の中から抜け出すように、僕は図書室を抜け出した。
揺れても、僕の思考は、鷹誓様だけのものだから。
教室の後ろの入口から入り込めば、友人が手招きしているのが見える。
彼は急かしているようで、それに答えるように急ぎ足で自分の席に着く。
今は3時間目で、なぜか、教室がさわがしい。
教師はいないし、ぼさぼさの髪の毛に、見たこともないくらい、分厚い眼鏡の見覚えのない人がいる。
席に着いた僕に、友人は嫌そうな顔をした。
「遅いよう。見て、あのすごい奴。…副会長様を虜にしたらしいよ」
「どういうこと?」
「よくわからないよう。あーあ。あいつ、副会長様の親衛隊を敵にまわしたね」
「…、そうだね。…鷹誓様は?」
「だいじょうぶっ。しきぶちゃんはきにしなくても平気だよ。たいちょーの僕が言うんだからー」
「…うん。幸香、ありがと。…赤葉君は?」
知らない、と答える幸香に、そっか、と答え、僕は教科書を机から取り出す。
がたんっと机が倒れる音とか、副会長様の親衛隊の人達の悲鳴がすごい。
幸香も教科書を開いているから、僕も同じように教科書を開きワークに取り掛かった。
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