林檎はお好き?-3-
うるさくなる、と予測していたが、思った以上に周りは要を放っておかなかった。
要が前に座る林檎に手を伸ばす前に、隣の生徒が話しかけてきて、そのあとからは周りにたかる人の山。
林檎は後ろに座った要に気付かずに教室を移動してしまい、要はそのままその人の山に連れていかれた。
少しだけ感じた寂しさに、要はもう一度ため息をつくことしかできない。
帰りは声をかけよう。
そう思い、要は移動した教室の自分の席に腰を下ろした。
授業を終えて、ようやく要を構う生徒が少しだけ減った。
部活に行く生徒の中、要は林檎の姿を探す。
林檎は教室の隅でしゃがんでいて、何かをしていた。
「桂木」
「はっ、はいっ!」
「はは、なんだよ、その返事」
ばっと顔を上げた林檎は、目の前に立っている姿にびっくりとした。
しゃがんでいて低いところにある視線に合わせるように、腰を下ろす。
何してんの、と問いかけると、林檎は恥ずかしそうに顔をそむけた。
「えっと…ね。…隅っこ、ごみが溜まってて」
「ごみ? ああ、ほんとだ。掃除ちゃんとしてないんだな」
「そ、そんなこと、ないよ」
「そうなんだ?」
塵取りの中にゴミを集めた林檎から塵取りを取り、ごみ箱に捨てる。
教室の中の雰囲気が少しだけ冷たく感じ、要は周囲を見渡した。
教室に残っていた何人かの生徒が、要を見ている。
「あ、花立君、ありがと」
小さなお礼が聞こえて、要はすぐに林檎の方を振り返る。
林檎はまた赤い頬を染めていた。
「桂木、これから帰るか」
「ん、うん、帰る」
「また頼んでもいいか」
「うんっ、僕でよかったら!!」
鞄をふたりで取りに行ってそのまま帰路につく。
嬉しそうに歩く林檎は、小さくてまるで自分よりうんと子どものようだった。
初めて友達と一緒に遊びに行くような、そんな感じ。
「花立君、おんなじクラスだったんだね」
「気付くの遅いな。後ろの席なのに」
「う、うしろなのっ、嬉しいな…!」
林檎の言葉はまっすぐで、心地が良い。
転入生ぐらいでざわついて、余計な詮索をしてくるクラスメイトとは違う。
隣に居て、心地よかった。
要は林檎を見て、小さく微笑む。
「わ…、花立君、かっこいいね」
「え?」
「花立君、かっこいいねって」
「うん、聞こえた」
「?」
首を傾げた林檎に、要は口元を押させた。
顔を覗き込む姿に頬が熱くなっているのを感じて、少しだけ視線を逸らす。
馬鹿みたいにまっすぐな言葉に思わず恥ずかしくなってしまった。
「まっすぐだなぁ」
「花立君、こっち、」
「え?」
「アパート、こっちだよ」
「あ、ああ。ありがとう」
まっすぐ行こうとしてしまったところを、林檎に呼び止められ要は身体の向きを変えた。
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