林檎はお好き?-2-

「あっ」

隣から出てきた姿に、要は思わず声をあげた。
要と同じ制服を着た桂木がそこにいる。
同じ制服を着ている要に驚いている桂木と、桂木がそこに居て驚いている要はお互いに指をさしあい固まった。


「桂木…?」

「あ…、えっと、あの…」

「ごめん、昨日、俺は名乗らなかったな。花立要だ。よろしくな」

「花立君。えっと…もしかして、二年生?」

「そうだけど」

「僕も…、えっとクラスは…、あっ、まだわからないんだよね! 僕は、えっと2組だよ…。えっと、もし困ったことがあったら…、僕じゃ頼りないかもしれないけれど、聞いてね! えっと、ごめんね!」

「…落ち着けよ」

あわあわと一生懸命話す林檎に要は思わず笑ってしまった。
くすくすと笑っている要に、林檎はもともと赤い頬をかっと真っ赤に染めて頷く。
要はそんな林檎が微笑ましくて、また声をあげて笑った。


「あのさ、学校まで迷いそうだから、一緒に行ってくれないか」

「…うんっ!」

嬉しそうに笑顔を見せた林檎は、朝日に照らされて綺麗だ。
先に階段を下りていった後ろ姿を追いかける。


学校につくと、林檎は教務室まで送ってくれた。
教務室についてから礼を伝えると、林檎はまた頬を真っ赤に染めてぺこぺこと頭を下げる。
お礼を言うのは要のはずなのに、頭を下げる林檎が可愛くて笑った。
もう一度礼を伝えてから、要は教務室に入る。


「おお、花立君。ここまで迷わずにこれたな。良かったよかった」

「いえ。ここまで、2組の桂木林檎に案内してもらいました」

林檎の名前を挙げた時、教師が眉間にしわを寄せた。
その違和感に気付いた要は教師になにか、と問いかける。
教師は首を振ってから、笑みを浮かべた。


「あ…、ああ、桂木か。あの子はいい子だからな。…よかった」

「はい、親切な人でした」

「そうか、花立君。良かったな、君は2組だ。…桂木と、仲良くしてくれよ」

「はい」

一瞬感じた違和感は教師の笑顔で、しこりさえ残したものの意識を別の方へ向けた。
林檎と同じクラスで少しだけ安心する。
教室を覚えられるか不安だったから、話しかけやすい人がひとりいることで安心を覚えた。
要は教師の後ろを歩き、今日から自分の教室になる2年2組へ向かった。


「じゃあ、私が入ったら後に続いてくれるか」

「はい」

教師に言われた通り、教室に入るとざわざわとした雰囲気が一瞬にして静かになった。
一瞬の静けさはすぐに要の存在にざわざわとし始める。
窓際の一番後ろの一席が空いていて自分の席をすぐに見つけた。


「今日から新しいクラスメイトになる花立要だ。じゃあ、花立君挨拶を」

「花立要です。県外の高校から転入してきました。よろしく」

挨拶をしてから、教室を見渡す。
あたりからの好奇な目に、要は静かにため息をついた。
これからうるさくなるのだろうな、と思いながら、席へ向かう。

空いている席の前の席、小さな姿が見えた。
サラサラしていそうな黒髪が窓から入る風に揺れている。
髪の合間から見えた、顔。
太陽の日差しの中で見た林檎だった。
いつでも赤い頬。
まるで、林檎の果実のようで、思わず小さく笑う。
林檎は居眠りをしているようで、かくんと首を揺らした。
また笑ってしまって、要は咳払いする。

席について腰を下ろすと、林檎がばっと顔を上げた。
あたりがいぶかしげに林檎の方を向く。


「じゃあ、次は移動教室だろ。遅れるなよ」

教師がそう告げて、林檎に集まった視線は散っていった。
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