キャパオーバーラブ

幼馴染×女装少年


「瑞。瑞はそのままでいいんだよ。僕は、そのままの瑞が好きだ」

ジリジリとけたたましい音が鳴り響いて、目を覚ました。
溜息をつけば、勢いをつけるように起きる。
いつも、ここで目を覚ます僕は、きっと運がないんだ。
ベッドから降りて、クローゼットを開く。
等身大の鏡が目に入って、うへへ、とわらってしまう。


「あーあ、いいところだったのに」

「何が?」

聞こえてきた声に体をすくませれば、ずしん、と重みをかんじた。
声を聞くかぎり、こいつは、僕の幼なじみであり、クラスメートのあつ。
低い声にどきっとしてみたり…、ちょっと悔しい。
うう、何故…、僕は入ることを許してないぞ。


「あああああつ、また、勝手に入って来てぇええええ!!」

「勝手じゃねぇよ。満さんに入れてもらったおはよう」

「みっちゃああああん!! おはよおおおお」

ばーん、と見事な音を立てて、扉を開ければ、そこにまたひとり立っていた。
その人を見て、もう一度扉を閉める。
それから、ぎぎぎ…と錆びついた扉のように後ろを振りむいた。
いや、これは、ついてるのだろうか。
それとも、ついていないのだろうか。


「あ、あつ…なんで、いつき君が…」

「あ? いつき? ああー、今日、アサレンないんだって」

「あ、朝練…。ど、どぉしよ、あつ、僕、まだパジャマだよ!!」

「はぁー? なんで、パジャマなのが悪いんだよ。いつもそうだろ」

「あ、…あつといつき君はちがうもん!! ああああ、どうしよ」

「…むかつく」

あつの言葉にシカトすることにした。
とりあえず、制服になる。
それから、髪をセットする。
僕は寝癖がひどいから。
いつき君、あつのおにいちゃんで、僕の…その、僕のすきなひと。
いつき君に見られるわけにはいかないから。
みっちゃんへの文句は、一通りおわってからにする。


「おお、すげー早い。でも髪もすげーぼさぼさ」

「…あつ、なんで昨日メールしてくれなかったの」

「なんで一々お前に報告しなきゃなんねぇの」

「だって!!」

「はいはい。早くする」

「もー!!」

扉のむこうから、いつき君が僕を呼ぶ声が聞こえる気がする。
とりあえず、髪は寝癖直しでどうにかなる。
いつも通りの、さらさらになる…ハズ。


「あつ、これで大丈夫?」

「可愛い」

「…っ、うん。知ってる。変じゃない?」

「なんだおまえ。変じゃねえよ、カワイイ」

「…僕、あつのそういうとこスキだよ」

あつはなんでもカワイイっていうから、シンヨウできない。
でも、また、どきっとしたちょっと。
とりあえず、鏡で確かめれば、いつも通り!!
よし、おっけー。鞄よし、髪型よし、今日もおっけー!!


「いつき君、お、おはよ!」

「瑞、おはよ」

「えへへ」

「みず、キメぇ」

「あつ、口悪いぞ」

チッ、と舌打ちが聞こえて来て、思わずあつをじとっと見る。
すると何を思ったか、あつが顔を真っ赤にした。
何故。


「いつき君、いこー」

「うん。瑞はいつ見ても可愛いね」

「えへへ、ありがと」

「新しい服買ったんだってね、今度はどんなの?」

「うん!! みっちゃんが買ってくれたんだけど、黒い制服みたいなやつ、なの」

「瑞は黒が似合うからね」

いつき君が、ふわって笑うから、すっごく、嬉しい。
だって、とても綺麗に笑うから。
今日はついてる!!
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