熱く、熱く

高校生×大学生


パシン、と頬を張られる音が響いて、僕は少しだけ安心した。
頬の痛みに驚きつつも、僕はハルの顔を眺める。
ハル…僕の恋人が鼻を啜る音を聞いて顔を上げると、彼は泣きそうな顔をしていた。
まだ泣いていないけど、鼻をぐずぐずと啜っている。
彼はナキムシだ。
それは悲しくてとかサミシイとかじゃなくって、彼の場合はただ目から雫が零れるだけのようだけど。


「マフユ、遅かったじゃねえか」

「ごめん。飲みだったから。ご飯、そっか、ご飯、食べてないもんね」

「俺が待ってるのに、いいご身分だな。プンプンと匂わせやがって」

「ごめんって、今作るから、待って」

高校生の彼は、今年僕の大学を受験するらしい。
だから、勉強を教えてもらうために泊る。
というのを言い訳に、彼は恋人であり、従兄である僕のマンションに住みついた。
こうして、僕が帰ってくるのを待つ。
そんな彼は、僕を愛してくれているかどうかは、彼しか知らない。



「ハル、はい」

「…これしかねえの?」

「材料が少なかったから。我慢して」

「ッチ。仕方ねえな」

「ハル、また涙がでてる」

「あ? ああ、拭け」

ハルはそう言うと、顔をこちらに向ける。
ぽろぽろとこぼれる涙を眺めて、僕は指で彼の涙を掬った。
ある程度掬い終わると、彼は夕飯に手を伸ばした。
オムライスと、スープ。
彼の好きなメニュー。
憎まれ口を叩きつつも、彼の顔は少しだけうれしそうだ。


「今日、テストどうだった?」

「あ?…別に」

「そう。ハルは頭がいいから、大丈夫だよね、別に、心配しなくても」

「なんだよ」

「別に、なんにもない。だって、テストが」

「うぜえ。お前、酔ってんのか。意味分からねえ」

「酔ってないよ、別に」

「お前、酔ってるとやけに口数が増えるんだよ。さっさと寝ろ」

ハルは軽く僕の頬を叩き、手を払って僕を追い払おうとする。
その手を掴んでしまえば、彼ははあ、と大きなため息をついた。
彼は結局、僕に甘いのだ。
食べ終わった食器を重ねて彼は流しに運ぼうとする。
そのため、僕は手を離さなければいけなくなった。


「マフユ、シャワー」

「ん。…ハルは? 今日、帰る日だけど」

「何、帰ってほしくねえの」

「…ん」

「じゃあ、さっさとシャワー浴びろ。酒くせえ」

「待っててよ」

「さっさと入れ」

ハルの大きな手に僕の腕がつかまれ、引き上げられた。
それから、背中を蹴られ、僕の体は前に進む。
思わず、じとっと見つめたら、今度は頭を叩かれた。


「ハルのいじわる」

「いつものことだろ。さっさと入れ。帰るぞ」

「ごめんなさい」

そういって風呂場に駆けこめば、ハルが盛大に笑う声が聞こえた。




「ハル…?」

「ああ、上がったのか」

「うん」

浴室から出れば、ハルはシングルベッドで雑誌を読んでいた。
顔も上げずに呟き彼は、くいくいっと手で僕を招く。
返事をしながら傍に寄れば、彼は体を仰向けにした。
それから、僕の方をちらっと見て笑った。


「来い」

「んっ」

彼の腕に頭を乗せて抱きつく。
抱きついて擦り寄ってしまえば、彼は小さく笑った。


彼に張られた頬が少しだけ、熱くなったのは、彼にはきっとわからないだろう。

end
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