夏花

少し広めの風呂場。
前に座った自分よりも一回り、二回りくらい小さな背中をじっと見つめる。
外に出ることの少ないひまの真っ白な背中。


「つゆくさ? 洗ってー」

「お、おう」

背中を洗う用のタオルを泡立てて、背中を這わす。
ひまは擽ったそうに笑いながら、自分の身体の前の方を洗った。
泊まりに来たときは大体一緒に風呂に入るが、やっぱり慣れないもので、我慢していないとすぐに元気になりそうだ。


「ひま、シャンプー貸して」

「ん」

シャンプーを受け取ってから、手の中で泡立てて髪を洗う。
ひまの細く柔らかな髪を優しく洗っていると、ひまが幸せそうにため息をついた。


「つゆくさ、つぎ僕が洗ってあげるね?」

「珍しいな」

「サービスです」

目を瞑ったひまの髪にお湯をかけ、それから身体についた泡も落としていく。
次、露草だよ、と椅子を勧められ、なるべくひまの身体を見ないように、椅子に座った。
後ろに回ったひまは、露草のマネをするようにタオルに泡を立ててから、背中をなぞってくる。


「どう、もっと強く?」

「ん、もっと強くして」

「はーい。露草背中広いね」

「そうか? まあ、ひまよりはうんとな」

そう笑うと、ひまは泡だらけの背中に頬を寄せた。
ひまのぬくもりに驚いて、立ち上がりそうになる。
うんとこらえてから、ひま、とかすれた声で呼んだ。


「露草、髪の毛も洗ってあげる」

今度はシャンプーを泡立てて、髪を洗う。
ひまの手は筆を持つくらいしかしないせいか、とても優しくて弱い力だった。

シャンプーを終えてから、ふたりは湯船につかった。
向き合ったひまの頬は、お湯の温かさから真っ赤に染まっている。
色の白いひまの赤らんだ顔は、どこか色っぽい。


「ひま、逆上せる前に上がれよ。お前と俺じゃ温まり方が違うんだから」

「ん。まだへーき」

体育座りをした爪先同士が触れ合い、じゃれあう様に指先がくすぐり合う。
不意に手を伸ばしてきたひまの手が膝に触れた。


「つゆくさ、好きだよ」

へにゃりと、溶けそうな笑みを浮かべたひまに、ドキリとする。
それからそっと手を伸ばし、ひまの頬に触れた。
ゆっくりと目を瞑ったのをみて、身体を少し浮かせ唇を触れ合せた。
ほんのり染まった頬に、もう一度キスをする。
このままだときりがない。
身体を離し、ひまの頬を撫でた。


「ひま、逆上せるだろ…、あがろう」

「ねー、つゆくさはー?」

くすくす笑いながら後ろをついてくるひまをタオルで包み、自分もタオルを腰に巻く。
向日葵の髪から香る香りが、同じシャンプーを使ったのにどこかいい香りがした。
露草、と呼ぶ声が舌っ足らずで、たまらない気持ちになった。

夏花 end
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