残る味

先輩×後輩


「初恋ってどうしてこうも後味の残るものなんでしょうね」

恋人がベッドの中でそんなことを言ったら、誰だっていぶかしげに眉をひそめるだろう。
ピロートークにしては、残酷なものだ。
枕に胸を預け、のけぞり気味にくつろぐそいつは、煙草をふかしながら携帯を開いた。


「昨日、街中で初恋の君が居たんですよ」

「男?」

「まあ、それはもちろん。先輩ご存知の通り、俺はゲイだからね」

「…続けろよ」

煙草をくわえ、横目で見てくる仕草は色をはらんでいる。
誰もが認める美青年だ。
うっかり、萎えきってしまった息子が勃ちあがってしまいそうになる。


「で、うっかり、気持ちが盛り上がっちゃいそうになったんですよね」

「へえ」

こいつは平気でそう言ったことを話すタイプの人間だ。
そう割り切っているからには、変に事を荒立てることはしない。
これは大きな戦争になりかねない種である。
しかし平和主義である俺は備え付けの大人な理性を総動員させてたった一言そう返事をした。


「なんでかねぇ。…初恋の相手ってのは、忘れられない。ふとした時に思い出しちまうんですよね。…先輩もありません? そういうこと」 

「…あー、確かにな。俺もあるな、そういうこと」

つい先日、見かけたかつての愛しい君。
清楚な白いYシャツを着てベージュ色のスカートを履いた、OL風の彼女。
見かけた瞬間に懐かしい感覚を思い出した。
どこか照れくさいような、それでいてあの甘い感覚。


「…何思い出してるんですか」

「かつての愛しの君だよ。お前と同じ。つい先日街中で見かけたんだよ」

「ふうん」

珍しく拗ねた様子だ。
人差し指と中指が挟んだ煙草を持ち直し、灰皿に押し付ける。
それから、ん、と声を漏らしながら、体勢を変えて、腕を乗せてきた。


「なんだよ」

「別に」

「…他の人とは違うんだよな。初恋の君は。どこか特別なんだよなぁ」

そう言いながら、ぎゅっとしがみついてくる恋人を見る。
眉間にしわを寄せているこいつに、ざまぁみろという気持ちになった。
しかし、こんなに嫉妬している様子を伝えてくるこいつは初めて見る。
意地悪はこれくらいにやめてやろう。


「特別っても、お前が今は一番だからなぁ。彼女にはアプローチしなかったけど」

「…バカですか」

「馬鹿はどいつだよ。…何、お前泣いてんの」

「ないてねーよ、おじさん」

「お前な。たった2こ上の俺にそんなこと言っていいのかよ」

ぐりぐりと頭を撫でてやると、すんっと鼻をすする音が聞こえた。
この話はきっともう、2度と話されることはないだろう。
なにせ後味の残ることだから。
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