無音の愛の囁き

無口×根暗


夕闇に染まりかけた水平線を見ながら、ジーンズのポケットから取り出した煙草に火をつける。
サンダルは砂だらけで、指の間に違和感を感じた。
ゆっくりと歩いていくと、後ろの足音が不意に止まった。


「どうした?」

返事はない。
振り返って、彼の傍に行くと、大きな手が空を指さした。
日が沈んでいった方向とは逆の方向。
もう真っ暗になっていて、星が輝いていた。
藍色とオレンジが混ざり合っている。


「綺麗だな」

足を止めて空を見上げる。
星が2、3個動いた気がした。


「なあ、海、好きなのか」

伸びてきた指先が絡まってきて、とんとん、と手の甲を叩かれた。
2回は、YESの合図。
1回は、NO。
帰ってきた返事に軽く笑う。


「俺も好きだよ」

そう答えて、つないだ手を強く握り返す。
ゆっくりと歩いて、少ししたら座ろう。
その言葉に彼が2回手の甲を叩いてきた。

彼の声を最後に聞いたのは、高校の卒業式の時、一緒に住もうと告げられた時だった。
一緒に住もう。たったそれだけ。
それでもまだ彼の声は耳に残っている。
大学も卒業して、就職してからもずっと、ふとした瞬間に耳元で再生されるのだ。
その言葉は、まるで、彼からのプロポーズのように聞こえたから。


「今度、もっと綺麗な海を見に行こう。海も、夜景も綺麗なところ」

2回の返事。
微笑みかければ、彼もかすかに微笑んだ。
つないだ手がぽかぽかとして心地よい。


「帰ったら、何しようか。もう暗くなってきたな」

きっと、帰っても何もしないんだろな、と笑う。
彼は笑っている俺を不思議に思ったのか、くいっと手を引いた。


「ううん、何でもない。帰るか」

彼に向かって話すと、大きな手に手を引かれた。
立ち止まって振り返ると、彼の顔が目の前に見える。
きらきらと星空の明るさで光る彼の瞳に驚いた顔をした自分がいた。


唇に触れたあたたかな感触。
久しぶりの口付けに、そっと目を瞑る。
星空にかわった空の下で口付けをするなんて、ロマンチックで思わず笑ってしまう。
彼もそう感じているのか、少し唇を離して頬を緩めた。
それから、唇が触れ合うくらいの距離でそっと目を瞑ると、彼の唇が動いた。


「あ、い、し、て、る?」

トントン、と手の甲を叩かれて、そっと目を瞑った。
もう一度、唇が触れて、頬を温かいものが流れていくのを感じた。

無音の愛の囁き end
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