最低男と天邪鬼
年下×年上
カーテンの隙間から入ってきた日差しが、水槽を通ってきらきらと輝いていた。
その光はフローリングを照らして、ゆらゆらと揺れる。
フローリングを眺めながら、後ろの温かい体温を感じていた。
時刻はもう、正午を過ぎている。
「起きてたのか、千紘」
「…隼」
「声かけてくれればよかったのに」
「寝てたから」
「大学終わったら呑みだから」
さっと立ちあがった隼に、千紘は体を起した。
履いていたスウェットのズボンを無造作に床に脱ぎ棄てて、クローゼットを開く。
クローゼットから綺麗に畳まれた服を出し、身につけていく姿を見ながら、千紘もベッドから腰をあげた。
隼の傍によって、後ろからそっと寄りかかる。
「なに」
「帰ってくんの何時」
「…聞いてどうするんだよ」
低い声が唸るようにそういうのを聞いて、千紘は広い背中から体を離した。
数歩歩いてすぐにベッドにつく。
布団の中に潜って、小さく悪態をついた。
「帰ってくんな」
千紘の悪態を聞きながら、隼はコートを羽織った。
4月になっても、まだ寒さが厳しい。
千紘の方を一度も振り返らず、狭いアパートを出て行った。
「…馬鹿、クズ、糞野郎…」
エアコンの効きが悪い部屋の中、千紘はベッドの中で小さく丸まった。
寝着いたのが、日付をまたいで、ずいぶん経っていたせいか、ゆっくりと瞼が降りていった。
「ただいまー」
出来上がった声が聞こえてきて、千紘は風呂場に向かおうと立ちあがった。
ずいぶん眠っていたようで、時計の針はもう12時を通り過ぎていた。
丸1日、無駄にした気がしてきて、溜息をつく。
部屋に入ってきた隼が気分よさそうに抱きしめてきて、千紘は眉を寄せた。
「酒臭い、近寄んな」
「あ? 何抵抗してんだよ」
「…最低、顔見せんな」
「千紘」
背中が、安っぽいマットレスに打ちつけられて、痛む。
押し倒された衝撃で瞑った目を開いた。
苛立ちを浮かべた隼が目に入ってきて、千紘は顔をそむける。
女の香水の香りが鼻先をかすめた。
「…そうやって、俺を縛り付けて、苦しめるのか」
「千紘は天邪鬼だよなぁ。こうやって、酷くされるのが、すきなくせに」
「お前は、最低男だ」
噛みつくような、キスが降ってきて、千紘は目を瞑った。
最低男と天邪鬼
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