俺しか知らない
会長×チャラ会計、後、ホスト教師×
「悪い、俺…」
「ううんっ。わかってたことだから、だいじょーぶっ。かいちょーはちゃんと、美玖ちゃんのこと幸せにしてね!!」
涙があふれだす前に、必死に平気そうな声を出した。
ぐっと喉元に力を入れて、声が震えるのを堪える。
だいじょーぶ。
だいじょーぶ。
会長は、やっと俺から解放されるんだよ。
俺しか知らない
はじまりは、俺が一目ぼれしたからだった。
ずっと好きだった優しい会長。
いつのまにか大好きになって、俺が告白をした。
優しくて、拒めない会長は、俺と付き合ってくれた。
たとえ、それが誰かの身代わりだったとしても。
そこには会長の俺だけへの愛があったって信じてる。
「だいじょーぶだよ!」
だから、必死に笑った。
これから、会長は俺の親衛隊隊長と付き合う。
いつの間にか、隊長と会長は仲良くなってて、いつの間にか俺だけが置いて行かれた。
でも大丈夫。
俺は、ちゃんと身を引くから。
大好きで優しい会長に、幸せになってほしいから。
「ありがとう、優衣…、ごめん、ごめんな」
大丈夫だよ、会長。
俺は、会長の抱きしめてくれるぬくもりだけを、覚えてるから。
さよなら。
「どうした、三波」
「きょーちゃん…」
「ほら、入れ」
小さな数学科準備室。
少しタバコ臭い室内に入る。
京介のスーツを見たら、涙が浮かんできた。
会長の前では強がってたけど、もう押さえきれなかった。
「優衣?」
「きょー…っ、ちゃ…っ」
「あぁ、ここにいるよ」
「きょー、ちゃ…んっ…」
腕を広げた京介の腕に飛び込む。
少しだけ冷たいスーツに体を寄せれば抱きしめてくれた。
会長とは、違う。
大人のぬくもりだった。
「かいちょ…、すきだったの」
「うん」
「すきだったんだよ…っ」
「うん」
「どうして、おれじゃ、だめなの…っ」
ぽんぽん、と背中を撫でられて、涙がぼたぼたと零れた。
灰色のスーツに跡を残す。
泣き顔や弱い顔を見せることのできない優衣。
「俺しか知らない。俺だけに、見せろ、弱いお前を見せて。優衣」
俺しか知らない、お前がいるだけで、俺はお前の支えになれるよ。
end
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