愛すべき馬鹿

おバカさん×苦労性


「お前って、本当に馬鹿だよな」

苦笑しつつ、目の前で涙を流す馬鹿を抱きしめた。


愛すべき馬鹿こそ、癒しになる。


しくしくと悲しそうに泣きじゃくる馬鹿にため息をつく。
俺のベッドの枕に顔を埋めて、ぐりぐりと押しつけていた。
馬鹿め。


「馬鹿だけど、頭のいい馬鹿だもん」

「たしかに。でも馬鹿は馬鹿だ」

「俺だって好きで馬鹿なんじゃないよぉ」

「何で恋人と他人を間違えるんだよ。馬鹿。くそやろう。チンカス」

「バカバカゆうな馬鹿ー」

しくしくと泣き続ける馬鹿は、先ほどこの馬鹿の恋人である俺と赤の他人を間違えた。
何をしたと思う?
…名前を呼んでディープなキスをかましやがった。
それを、恋人である俺の目の前で。
正直言うと、殺してやろうかと思った。
俺はこいつのことをバカバカバカバカ馬鹿にしてるけど、愛しているんだ。
そんな俺に対する仕打ちがこれだ。


「しかも、なんだお前が泣いているんだ。泣きたいのは俺だ」

「だってぇ…だって、俺の唇が他の奴に奪われたのに、泣いてくれないんだもん」

「奪われたのは、先ほどの彼であってお前ではない。お前が勝手に彼の唇を奪ったんだよ」

「うあああんっ! なんでそんなに冷たいんだよおおおお。別れてやるううう」

いいとも。別れてやろうではないか。
俺はお前のこと好きだけど、お前と通りすがりの彼と間違えるくらいだもんな。
そう言って立ち上がる。
冷たい視線を向けると、馬鹿は急いで立ちあがって俺を抱きしめた。


「うそ、うそうそうそ!! お前が一番なんだよぉっ」

「わかってるし馬鹿」

「うああああん、好きだぁああ」

「わかってるっての、馬鹿」

ふたりでベッドに飛び込んでキスを交わす。
今度はちゃんと恋人である俺に。


「馬鹿は愛すべき馬鹿じゃなければな」

「ん?」



愛すべき馬鹿


end
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