Amour immoral
教師×生徒
道徳的な恋がしたかった。
誰からも許されて、認められる。
そんな恋が…したかった。
だから…ごめんなさい、
Amour immoral
友人と放課後、ふたりで帰った。
一緒に帰って、適当に遊ぶ。
ひとり暮らしの僕の家には、よくこの友人が来た。
けれどこの友人は7時前には家に帰らなければならない。
門限が決まっているらしく、いつも名残惜しそうに帰っていく。
今日もそんな彼を見送った。
その、1時間後。
僕の部屋には、また来客者が来る。
その人は…
「穂並」
「…せんせい」
部屋に迎え入れて、僕はソファーに座った。
キッチンへ向かっていて、ブラックコーヒーを入れる。
それを眺めながら、僕は先生の香りを嗅いだ。
先生はいつも薬品臭い。
化学の先生だから。
化学の先生な、先生が好き。
「今日は12時にあいつが帰ってくるから、その前に帰る」
「そう。…ねえ、離婚しないの」
「んー? …しないよ」
「どうして」
先生は、僕の隣に座って、僕のこめかみに口付けした。
僕を宥めるときの先生の仕草。
この仕草は嫌い。
先生はこうやって僕をはぐらかす。
離婚してよ
別れてってば
一緒に死んでよ
もう、会うのやめよ
何回も先生に伝えた。
けれど先生は僕を手放そうとしない。
僕の愛は、先生にとっては火遊びでしかないのを、僕は知っている。
「ほなみ…」
甘い声に絆されて、結局はぐらかされる。
口付けされれば、どうしようもなくなった。
涙なんて、もう零れなくなった。
「ほなみ…可愛い」
「しってる…あ、あんっ」
「愛してるよ」
なら、なんで…僕だけにしてくれないの…?
女は狡い。
柔らかい体と、先生と正しく繋がれる場所を持ってる。
愛しても、愛されても、誰からも許される。
狡い、狡くてしょうがない。
子供を産むなんて、ずるい。
子供を産んで、先生を縛りつけるなんて、狡い、狡い、狡い。
もう、殺してしまいたい。
先生を殺して、僕も死んでしまいたい。
先生の腕の中で、そんな醜いことを考える僕は、生きている価値なんて、ない。
「殺して」
先生が果てる時、僕の呟きはやけに響いた。
ころして
先生に殺されたい。
首を、その大きな手で絞めてほしい。
そう先生に伝えたら、先生は僕の首に手をかけた。
「愛してる。愛してるよ、穂並」
「くっ…あッ…」
苦しい…。
このまま、死んでしまったら…、幸せ。
「ごめん、穂並…」
「はっ、く、はっ、はァッ、はあ、っ、どっ、して…!!」
意識を落とせる、と思った時、先生が手を離した。
ゆるゆるとはいってくる空気が苦しい。
荒い息を吐きながら、ベッドを叩く。
強く、先生の肩も叩いた。
「はっ、はァッ、し、んだほ、が、ましっかはっ、」
咳をする僕を抱き上げて、先生は強く抱きしめた。
あともう少しだったのに。
そう呟けば、先生が苦しそうに僕を呼んだ。
道徳的な、関係。
先生と生徒。
それ以上にも、それ以下にもなってはいけなかった。
道を外れた僕と先生は、
不道徳な関係になった。
僕の恋は、不道徳で、
誰も許してくれない。
性別、年齢、既婚者。
どれも、もうどうしようもないもの。
「…死んでしまいたい」
「ごめん、穂並…」
「許さない」
「穂並、愛してるんだ」
頭を抱えて、先生は苦しそうだ。
「先生、もう共犯なんだよ」
「…」
「だから、もう、あきらめて…」
そう呟いたら、先生は僕を掻き抱いた。
身を落とす、不道徳な世界へ。
Amour immoral
end
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