キャパオーバーラブ-3-

「制服みたいな服が好きなのは、あつだろ」

「あー? いつきも好きだろ」

「僕は白いワンピースが好き」

「今どきいねーよ。つか、いつきまじなんなん」

「あつばっかりいい思いをするのは癪にさわる」

いつき君に耳を塞がれて、何も聞こえない。
っていうか、少し歩きづらい、けど、流石にバスから降りる時ははずしてくれた。
いつき君に触れてもらえるから結構嬉しい。
あつがくしゃくしゃって、僕の髪を撫でてきた。
どうしたんだろ、でも、なんでかな、嬉しい。
やっぱり、僕、おかしいんだ。
きゅうって、胸が締め付けられるみたい。


「あつはさ、いつも一緒に行けるんだから。今日くらい譲ってほしかった」

「…譲らねえよ」

「ケチだな」

いつき君の手が離れて、僕は息を吐く。
もう校門が見えてきて少しがっかりする。
三年生のいつき君と一年生の僕たちは校舎が違うから。
ちなみに、男子校で結構山奥にあるから同性愛者とか多い。


「瑞、行くぞ」

「あ、あつ、待って。いつき君、またね!」

「うん。またね、瑞」

あつがすたすた歩くから、僕もいつき君とバイバイする。
小走りであつを追いかければ、あつは止まってくれた。


「歩くの早いよ」

「いつもだろ。てか、瑞、髪のびたな」

「え、そう?」

「色、落ちてきてる」

「あ、そろそろ染めなきゃだよね。あつ、やって」

「おう」

そういえば、いつの間にか、髪が胸元まで伸びてた。
ずっと、脇にまとめて縛ってたから気付かなかった。
前にいつき君に雑誌でどれが好きか聞いて、それ以来ずっとこの髪型。
結構、気に入ってる。
僕は女顔だから、違和感ないし。
同性愛者の多いこの学校だと、気持ち悪いとか言われないから。
でも、最近は服と合わなくなってきたから、ウィッグにお世話になってる。
あつは、気に食わないようだけど。



「髪、切ろうかな」

「…ど、…んな風に」

「あつに任せる」

「お、お前、どうした。いつきに聞かなくていいのか?」

「え? …、うん」

「お、おい、お前、どうした、変だぞ」

「あ、あつのほうが〜っ…!!」

あ、あつが真っ赤な顔してる…。
また、きゅうって、胸が締め付けられる。
ほんと、どうしたんだろ。
いつき君の好きな髪型じゃなくて、あつに任せるなんて。


「ぼ、僕、今日、変!!」

「お、おう。変だ」

「あ…あつのせいなんだからぁ〜っ…!!」

「は、え、俺!?」

うう、キャパオーバーで涙がぽろぽろ零れてきた。
あつが、おろおろしてるのが見えて、余計にきゅうってなる。
変だ、確実におかしい!!
周りから、瑞ちゃんが泣いてるって聞こえてくる。
僕、結構人気だから…って違う。
わわ、目に見えて混乱してるよ!!


「と!! …とりあえず、教室行こう」

「う!! …うん」

周りがざわざわしてきて、思わず赤面。
あつもなんだか同じようで、焦ったように僕の手を掴んですたすたと歩き出した。
引っ張られるように歩けば、掴まれた手が急に熱く感じる。
やっぱ、おかしい。いつき君に耳を塞がれた時より、ドキドキするなんて…!!

教室に着くまで結局無言で、あつの真っ赤な耳を見つめながら歩いていた。
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