なにも言わずとも
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暑い空気に耐え切れずに入れたクーラーの風がとても心地よくソファーでうとうととする。
テレビの中では毎年恒例の記録的猛暑の言葉が流れていた。
「記録的猛暑って去年も聞いたよな。一昨年も、その前も」
隣で同じようにテレビを眺めていた風太にそう言われて思わず笑う。
彼の会社は、今日はお休みのようだ。
だらりと座った彼の前には、氷の溶けた麦茶が置かれている。
「むくは? こんな暑い中出かけてるのか」
「壱琉さんとプールに行ってますよ」
「プールゥ!? こんなに暑いのにか」
「暑いからプールに行ってるんですよ、もう」
くすくすと笑う汰絽に風太はまだ暑いのか、と呟いている。
このめんどくさがり屋はこの休みは家に引きこもりたいようだ。
会社に勤めるようになってからは、短く切った髪はどこか涼しげで汰絽はそんな髪を見て微笑む。
未だに金髪だけは嫌なのか、根本の金色が見え始めると彼はすぐに白く染める。
「風太さんの金髪、見てみたいな」
「…はい?」
「一度でいいから、金髪の風太さんが見てみたいです」
「あー…、そのうちな」
そう言ってはぐらかす彼に笑い、氷の溶けきった麦茶を煽った。
新しいの入れてきますね、と立ち上がると、大きな手が手首をつかんで引く。
ソファーに座り、風太の腕が肩に回った。
「まだいいさ」
「そうですか」
ずっと一緒にいるうちに会話は減ってきたけれど、そんな変化さえも心地よくてたまらない。
彼の考えていることが、わかるような気さえして、汰絽はくすりと笑った。
「風太さん、たまにはお出かけしましょうね」
「…暑くなかったらな」
はい、と笑いながら答えて彼の頬を撫でる。
薄く開いた唇にそっと口付けてもとの位置に座りなおした。
「たろ」
「麦茶ですね」
「ああ」
水滴のついたコップをもって、キッチンへ向かった。
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