落ちた先は彼の腕

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真っ逆様に落ちる。


初めて愛を知った。
これが愛とは知らないけれど。
きっと、この人はだけは。
僕を愛してくれる、ただひとりの人間なんだ。


落ちた先は彼の腕


昔は、死んでしまいたくて仕方なかった。
昔といっても、3年ほど前のことだけれども。
今はもう、死んでしまうのは惜しいと思うくらいに、生きていることを実感している。
居場所は彼の隣でしかないけれど。
彼の隣はとても心地が良い。
彼の家、彼と同じ教室、彼の隣が今の僕の居場所。


「生きていたいな」

昔恋い焦がれたあの高い高い屋上を思い出す。
今はもう、恋い焦がれなどしない。
落ちた先は、彼の腕の中だから。


「ソラ、教授がキミの絵を褒めていた」

「そう。…ねえ、ダイチ。僕を描いて」

「いいよ。ほら、そこに座って、僕の愛おしいソラ」

彼にそう促されて、素直に従う。
椅子に座って、彼を煽るように薄く唇を開く。
彼はクスリと笑って、近づいてきた。
ゆっくりと歩く足取り。
さらさらと靡くバタースコッチ。
日の光を浴びてきらきらと輝くエメラルド。
どれも、どれもが僕のモノ。


「ダイチ…」

そっと、彼の好きな声音を使って彼を誘い込む。
うっすらと開いて、舌足らずな声で彼を呼び込む。
絵の具のついた指先が伸びてきて、目を瞑った。


「ソラ」

優しく呼ぶ声に、その名前が愛おしくなる。
彼に呼ばれる名前も、彼に愛される身体も何もかもが愛おしく感じた。


「ダイチ…っ、」

絵具のついた指先がくるくると首の下をなぞり、ゆっくりと下りてくる。
心が揺れ動かされる。
胸を締め付けてくる感覚がとても心地よくて、そっと目を瞑った。


「ソラ…、僕の名前を呼んでくれ」

「ん…、ン…ダイチ…、ダイチ…」

「ああ、それでいい。キミは僕の名前を呼んで、僕の白で染められていればいい」

彼の熱く高まっているものがはじけて、中で熱を広げた。
その熱を教え込むようにかき回されて、目を瞑る。


「…ダイチ…、ダイチ…」

「教授は、キミを愛しているそうだけれど、キミは僕のモノだよ」

こくりと頷いて、彼の唇に吸い付いた。
彼の腕の中がとても心地よくて、そっと目を瞑る。


「ソラ、帰ろうか。帰ったらキミを描こう」

「うん…、ダイチ、拭いて」

「ああ」

彼はポケットから出したハンカチで、僕の太ももを伝う彼の白をそっと拭いた。

僕を凌辱した人達はみな、彼の手によって報復を受けたらしい。
もっとも、僕はそんなことはどうでもよかったから、あまり気には留めなかった。
ただ彼に愛されて、居場所があるということだけが本当だから。


「落ちた先は、ダイチの腕の中だったんだね」

そう呟くと、ダイチがそっと両腕を広げた。

end
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