小さなお姫様-2-
勉強を終えて、ふたりは外套を羽織り街に出た。
王子であることを隠して出かけるのが、最近の楽しみとなっている。
手を握り合い、ぶらぶらと揺らしながら街中を歩く。
途中、夕焼の大好きな菓子屋できらきらと色とりどりのお菓子を買った。
それからゆっくりと歩いて、昔は薄暗く危険な森と恐れられていた森へと向かう。
「夕焼、泉で水浴びでもしよう」
「やったっ」
手を離して走っていく夕焼の背中を見つめる。
ひらひらと夜色の外套が揺れるのを見ていると、まるでその外套が自分と夕焼の関係を表しているように思えて息をつめた。
走って行った夕焼に駆け寄り、後ろからきつく抱きしめる。
「わ、兄様?」
「夕焼、俺の手を離すな」
「ごめんなさい…?」
いい子だ、小さく呟いて、夕焼の手をしっかりと握りしめた。
柔らかな黒色の髪を空いている方の手で優しく梳く。
その指先で紅色の頬を撫でた。
「兄様、脱いでもいい?」
「替えを持ってきたから、そのまま入りな」
「兄様は入らないの?」
「俺も入る」
少しだけ手を離して外套と上着を脱ぐ。
夕焼も外套だけを脱いで、夜明を待った。
もう一度手を繋ぎなおして、泉に飛び込む。
「ふっ、きもちー…」
「冷たいな」
「兄様」
兄の首に腕をまわし抱きつく。
お互いの体温が混じり合って心地よい。
夕焼の背中に腕をまわして、濡れた黒色の髪に口づけた。
「ほら、泳げよ」
小さく頷いた夕焼は夜明から体を離して、ゆっくりと泳ぎ始めた。
泉に、夕焼の束ねられた長い髪が揺られる。
泉からあがって、木の下でぷかぷかと浮かぶ火を作り出す。
服をその火で乾かす…、そう口実を作って帰る時間を遅らせていた。
真新しい着替えを着こみ、夕焼を抱きしめる。
「寒くないか」
「…少しだけ、寒い…。兄様は、寒くない?」
「ああ、寒くない」
「兄様、あのね」
そう呟いた夕焼は口を閉ざして、火に手を翳した。
足を抱えて、後ろの胸板に体を預ける。
「夕焼?」
「…ううん、なんでもないの」
わしゃわしゃと髪を撫でて、もう一度夕焼を抱き締めなおした。
温かい温度が心地よく、そっと目を瞑る。
「お前は、小さなお姫様だ」
「…お姫様?」
「ああ、お姫様だよ」
「そっか」
こくりと頷いて、夕焼はぷかぷかと浮かぶ火にふっと息を吹きかけた。
消えた火によって真っ暗になる。
真っ暗な闇の中、夕焼が身じろいで、こちらを振り向いたのを感じる。
暗闇の中で視力はまったく当てにならない。
唇に柔らかな感触が触れて、そっと目を瞑った。
小さなお姫様 end
後書
リクエスト内容
3兄弟の下2人のお話
やまさん様リクエストありがとうございました。
遅くなって申し訳ありません。
夜明と夕焼、また日夜夫妻の話はいずれ書きます。
少し触れるような形で書かせていただきました。
楽しんでいただけましたら幸いです。
書きなおし等はやまさん様のみお受けいたします。
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