子供みたいな大人たち-6-*

リビングに戻ると、時雨がビールを冷蔵庫から出していた。
椿がふらふらとしている時雨にすぐに駆けつける。
落ちそうなグラスを取り、時雨を支えた。


「時雨さん、飲みすぎ…。ふらふらしてるよ」

「んー…椿ー?」

いつもに増して甘い表情で見つめてくる時雨に、椿は息をのんだ。
優しい声も、甘い吐息も、誰にも見せられない、椿だけのもの。
不意に熱い時間を思い出して、体がきゅっと竦んだ。


「し、ぐれさ…っ、だめ、しっかりして…!」

ぎゅうと強い力で抱きしめられて、椿は声を軽く上げる。
リビングの騒がしい様子に気付いた井上は振り向いた。


「…大丈夫か?」

「も、寝室に連れてきますっ」

「そうしてくれ」

椿は時雨の手を取り、リビングを後にする。
静かになったリビングで、井上は苦笑した。


「俺は規格外に強いからな。風太君もまだまだいけそうだったし」

“時雨さんも強そうだけど…”

「時雨は風太君と俺との中じゃ一番弱いみたいだな」

有岬の頭を撫で、笑う。
時雨を連れて行った椿が戻ってきて、タオルを何枚か有岬に渡した。
それからリビングを出て、椿に案内してもらう。


「簡易シャワー室が、寝室にもついてるから…。お風呂入りたかったらあそこ」

椿が指さした先を2人で見る。
最後に椿が扉を開き、寝室はここ、と案内してくれた。


「僕達の寝室はここ。ここの隣をどうぞ。何かあったら、言ってね」

ふんわりと微笑んだ椿が隣の部屋に入っていく。
有岬と井上はそれに返事をして、与えられた部屋に入った。
広々としたそこは寝室というにはもったいないくらいだ。


「さすが一財閥跡取り。すごいな…」

井上が呟くのを聞きながら、有岬はタオルをベッドに下ろした。
それからぽすんとベッドに上に座る。
隣の部屋から、声が少し漏れてきた。
甘い声が聞こえてきて、井上は咳払いし、有岬は顔を赤らめる。


「…防音だと思ってたけど、ここは薄いんだな」

“シャワー浴びてきます!”

恥ずかしさに耐えきれなかったのか、有岬はばっと立ち上がり、備え付けのシャワー室へ飛び込んだ。


「…シャワー浴びに行った方が、その…なぁ」

井上の呟きは、有岬には聞こえなかった。
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