期待してもよろしいでしょうか。

部屋を出て、キッチンへ行く。
そうめんでも茹でようか、と鍋を取り出した時、風太は急に赤くなった汰絽を思い出した。
あれは、俺が触れたからか…?
不意に、そんな考えがよぎり、風太は苦笑した。
鍋に水を張り、火にかける。
棚に収まったそうめんを取り出して、封を切った。




「大丈夫か。…そうめんゆでたけど、食える?」

ベッド脇の机にお盆を置き、風太はベッドに腰を下ろした。
汰絽が起きあがるのを確認し、膝にお盆を置く。
熱でとろん、とした表情の汰絽に、箸を手渡した。


「なんか食ってからじゃねえと薬飲めないからな」

「…たべれます」

「ゆっくりでいいから食べな」

耳に髪をかけながら温かいそうめんをすする。
おいしい、と小さく呟く汰絽に風太は小さく笑った。
目についた、口元に付いた汁を、指先で掬って拭う。

かあ、と汰絽の顔が真っ赤に染まった。
箸がお盆の上にかちゃん、と音を立て、風太は目を見開く。



「…汰絽」

いつもと違う、まじめな声。
鼓膜を震わせ、汰絽は身震いした。
頬が真っ赤に染まっていることは知っている。
急に体が熱くなったのだ。
今まで知らなかった急激な熱に、汰絽は小さく声をもらす。
この熱の原因に気がついた。
これは、きっと。
きっとあの感情が高まっているんだ、と。
汰絽は気づいてしまった心に、さらに体が熱くなったのを感じる。



「風太さんの、せいだ…」

思わずもれてしまった汰絽の呟きに、風太は口元を押さえる。
震える手で箸を取った汰絽はたどたどしい様子で食事を再開した。


「これは…、期待してもいいのか」

ぼそぼそと呟いた言葉は汰絽の耳には入らなかった。
そうめんを食べ終えた汰絽が薬を、と手を伸ばしてくる。
風太は、少し焦りながらも、そっとその小さな手に薬を置いた。

期待してもよろしいでしょうか。 end
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