腕の中

同じ男とは思えない、柔らかな体を抱きしめる。
熱があり、ひどく熱い。
そっと額の髪を払うと、ふう、と吐息が聞こえた。


「早く元気になれよ」

そんな風に呟いて、額に口付ける。
少しだけ罪悪感を抱きながら。

頬を撫で、そっと指先をずらして唇に触れる。
とても柔らかくて、ふにふにとその柔らかさを味わう。
今朝、この柔らかさを自分の唇で感じたのか。
不意にそんな思いがわきあがり、風太はもったいないと思った。
そんなどこか子供じみた考えに、風太は苦笑する。
らしくないな、と考えながら。

汰絽の体の熱さを感じていたら、しだいにうとうととしだした。
目を瞑ると、すぐに眠りについて行くのを、風太は感じた。



「ん…」

目を覚ますと、体に心地よいぬくもりを感じた。
少しだけ寒気がする。
熱はだいぶ下がったが、まだ全快とまでいかないようだ。
目を開けると、灰色のVネックが目に入る。


「…ん」

そっとその灰色にすり寄る。
心地よい温度を感じて、汰絽はそっとそれに手を当てた。
瞼が落ちていくのがとても気持ち良く、再度眠りに落ちていく。


汰絽の小さな声に、目を覚ました風太はため息をついた。
腕の中の汰絽が、再度眠りについて行くのを眺めながら、風太はさえてしまった眠気へのため息。
せめて、あんな柔らかく、甘い表情を見なければよかった。
なんて、小さく愚痴る。
眠りについて行く汰絽の幸せそうな表情が甘すぎて、理性というものが機能しなくなりそうだった。
病人相手に何考えてるんだ、と自分を責める。
まだ闇が深まり始めたころ。
夜が長いと感じたのは初めてだった。




「ふあぁ…」

小さなあくびが聞こえてきて、風太は目を覚ました。
腕の中にいた汰絽がまだ眠たそうにあくびをしている。
いつの間にか眠ってようで、どこか疲れが抜け切れてなかった。


「ん…、風太さん?」

不意に、汰絽のまだトロンとした声が聞こえてきて、風太は起き上がる。
額に手を触れると、熱はだいぶ下がっていた。


「熱下がったな」

「そうみたいです」

「まだ眠たそうだな。…今日はまだゆっくり寝てな」

「でも、」

「いいって。夕方になったらむくを送ってきてもらうし。たまには俺が飯作るのもいいだろ?」

のそのそと起き上がりながら、汰絽がえー…と呟く。
そんな様子を笑いながら、汰絽の髪をなでると、汰絽は急に顔を真っ赤にした。
ぼふん、と音が出そうな程急だった。
風太は変に赤い汰絽に首をかしげながら、どうした、と尋ねる。


「…いえ、なんでも、ないです」

と、たどたどしい返事が返ってきて、風太は再度首をかしげた。


「まぁ、とりあえずもう少し寝てな。薬と朝食作ってくる」

「おねがいします」

ぱたん、と横になる汰絽をみつつ、風太は自身の部屋を出た。
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