どきどき

「なんでそんな怒ってるんだよ」

「…べつにっ」

「…俺なんかしたかぁ…?」

不可解そうに首をかしげる風太に、汰絽は俯いた。
今朝のことを風太は全く覚えていないようで、少しだけ残念に思う。
そんな寂しさに汰絽は首をかしげた。


「ん? たろ?」

「…え?」

「いや、首かしげてるから」

「…なんでもないですっ…っわっ」

「あぶね」

足元の段差に躓いた汰絽を風太が支える。
急に距離が近づいて、どくんと心臓がはねた。
汰絽は風太からばっと飛びのき、大丈夫ですから、と手を振る。


「変なやつ。…あ、やべ。急ぐぞ」

「はいっ」

時計を確認してから走り出す風太の背中を追う。
心臓はまだどくどくと鼓動を上げていた。



「よしくん、おはよう」

「…おはよ、なんだかぐったりしてるな」

「うん、なんだか疲れちゃった…」

となりの席に着く汰絽のぐったりした様子に好野は苦笑いした。
なんだか頬も赤い。
熱でもあるのではないかと額に触れるが、それほどでもなかった。


「そういえばさ、今朝さー、き」

「き!?」

「…なんだ?」

「いや、き?」

「ほら、うちの隣の犬のきんちゃんがさ脱走して」

変な汰絽と、好野が不可解そうな顔をしながら続ける。
どくどくと音を立てていた心臓は、いつの間にかおさまっていた。
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