手を繋いで3人で
マンションを出ると、夏翔が車を止めていた。
すぐに乗り込み、どこかへ向かう。
どこに行くの、とむくが尋ねると、風太は内緒、と答えた。
数分、車を走らせると、ついたのは駅。
夏翔にお礼を伝え、駅に入ると風太が切符を買う。
むくと手を繋いでいる汰絽に手渡してから3人は改札をくぐった。
「むく、電車乗るの初めてか?」
「うんっ。でも今度、幼稚園で遠足で乗るって」
「それは楽しみだな」
電車を待つ途中、3人で手を繋ぐ。
右手を風太、左手を汰絽が繋いでいた。
「むく、電車が来たときは黄色い線の内側にいなきゃなんだよ」
「うん、わかったっ」
黄色い線の内側で待つ。
まもなくー…とアナウンスが入り、むくは目を輝かせた。
「わあ、すごい」
ホームに滑り込んできた電車のドアが開き、3人は乗り込む。
ボックス席に座り、窓側に座ったむくの隣に汰絽が座った。
電車が動き出すと、むくはうれしそうに声を上げる。
「風太さん、どこに…」
「…事故現場」
「…どうして」
むくが電車の窓に夢中になっている間に、風太に問いかける。
帰ってきた答えは、汰絽が想像していたものだった。
きっと、風太は汰絽の両親と姉夫婦がなくなったあの場所に行くのだろう、と。
予感めいた汰絽の考えはあたり、少し呼吸がしにくくなる。
けれど、今は、そこに行くべきだと思った。
風太の考えが、なんとなく汰絽にもわかるような気がした。
「たぁちゃん…?」
きゅっと目を瞑っていたら、むくに声をかけられた。
どうしたの、と問いかけると、なんでもない、とまた窓に視線を戻す。
心配させたかな、とむくの頭を撫でる。
「俺は、…今行くべきだと思った」
「…奇遇ですね。行き先を内緒って言ったとき、気付いた気がしました。僕も、向き合わなければいけない」
「お前も、むくも、悲しい思いをするかもしれないけど、俺はそれ込みでお前達を抱えるつもりだよ」
「…風太さんは、ずるい」
汰絽の小さな囁きは聞かなかったことにする。
風太は繋がれた汰絽とむくの手を眺めた。
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