おいしい食事

「その分、俺らが愛してやればよくね?」

不意に風太の声を思い出して、汰絽は隣で眠るむくを見る。
そっと頬を撫でてから汰絽はむくの額に口付けた。
涙で濡れた目元を拭いて、むくを抱きしめて眠った。



カーテンから淡い日差しが入り込んできている。
誰もいないダイニングで、風太はテーブルについていた。
携帯を開き、また閉じる。
意味もないその行為に、風太は携帯をテーブルに置いた。

リビングからかたん、と音がして、風太はそちらへ視線を移す。
小さな影が落ちて、入ってきたのがむくであることに気がついた。


「むく、どうした?」

「…ううん。ねえ、風太」

「ん?」

むくが風太のそばに駆け寄ってきた。
風太のジーンズの膝を掴んでくる。
そっとむくを抱き上げ、膝に乗せた。


「風太、おはよ」

「お? おはよう。今日は早起きだな」

「うん。おきたー。たぁちゃんはまだねんねー」

「そっか。むく、今日は幼稚園休みな。ちょっと出かけよう」

「3人で?」

「おう。…汰絽が起きてからな。その間に朝食でも作るか」

うん、手伝う。
元気に返事をしたむくに笑い、風太は腕まくりをした。



「おはようございます…」

少し疲れたような声が聞こえてきて、むくと風太はリビングのドアに目を向けた。
入ってきた汰絽はダイニングのテーブルに並べられた食事を見て目を見開く。
机に並べられた豪華な朝食に、汰絽は思わず微笑んだ。


「すごいですね」

「ああ。むくと一緒に。ほら、そのサラダ、むくが野菜ちぎってくれたんだぞ」

「むくも手伝ったの? 上手だね。サラダ食べるの楽しみだな」

むくを抱き上げて満面の笑みを浮かべる。
少し照れたように笑うむくを見て、風太はほっと息をついた。


「汰絽、今日は俺たちも休もう。遠出するぞ」

「あ、はい。じゃあ、ごはん食べたら支度しますね」

そのあとすぐに、いただきますの挨拶をした。
コンスープと程よく焦げ目がついたパン。
むくが手伝ったシーフードサラダに、ハムエッグ。


「おいしいです」

「そっか。むく、良かったな」

「うん。たぁちゃん、今度はたぁちゃんのお手伝いするねっ」

「お願いします。むくが手伝ってくれると、助かるよ」

楽しげな2人に、風太も笑う。
じゃあ俺も手伝おうかな、と言うと、むくが大きく頷いた。
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