心を感じる
「先生、むくはどうしたんですか」
涙をぽろぽろとこぼしたむくを思い出す。
悲しそうな顔は、どうしたらいいか分からない、と物語っていた。
「今日、ゆうちゃんがお休みだったんです」
「むくの友達ですよね」
「はい。それで、むくちゃんほかの子と一緒にいたんですが、そこの子たちと…」
喧嘩でも…。
と、風太が呟くと、先生はこくりと頷く。
むくにしてはめずらしい、と顔をしかめると、先生はむく君は悪くないんです、と声を出す。
「何が、原因ですか」
「むく君のご両親がいらっしゃらないことで、周りが騒ぎ立てちゃったんです」
「…むくはその時は」
「静かに耐えてました。決して、怒ったりせず…。なので、喧嘩とは言い難いのですが」
「…そうですか」
先生がすみません、と深々と頭を下げる。
風太はいえ、と返事して、明日は休ませますので、と告げた。
それから、風太はむくと汰絽のもとへ向かった。
むくを抱きしめた汰絽が、泣いている。
声も漏らさずに。
ぎゅっと抱きしめた腕には、とても力が入っていて、風太は一瞬声をかけることを忘れた。
「むく…」
小さくむくを呼ぶ声に、風太は足を進めた。
ブランコに腰をかけた汰絽と、汰絽に抱きしめられたむくを、2人ともまとめて抱きしめる。
汰絽の体が震えていた。
「たろ、むく…、帰ろうな」
そっと汰絽の背中を撫で、2人を抱きしめていた腕を離す。
汰絽の膝から降りたむくは、ごめんなさい、と呟いて風太と汰絽の手を握った。
マンションに帰り、夕食を終えたら、むくはすぐに眠りについた。
泣きつかれたんだな、とベッドで眠るむくの頭を撫でる。
寝かしてくる、と汰絽とむくの部屋にきた。
眠ったむくから頭から手を離す。
「たろ、大丈夫か?」
こくり、と蜂蜜色が揺れる。
ソファーに腰をかけた汰絽の隣に座った。
目元が赤く、まだ瞳がうるんでいて、風太はそっと汰絽を抱きしめる。
「…、むくが、…むくが、」
「ゆっくりでいいから」
説明しようとすると、声が詰まる。
背中を優しく叩いてやると、汰絽が嗚咽を零した。
きゅっとYシャツの肩を握られる。
「どうして、むくには、パパとママがいないのって」
震えた声に、汰絽の心情を悟る。
そっと抱きしめた体を離し、風太は汰絽の頬を撫でた。
柔らかな感触が、涙にぬれて冷たい。
「幼稚園でさ、そのことで、他の子に言われたんだって」
「だから、」
「あぁ。でも、その分、俺らが愛してやればよくね?」
そう言って、風太はくしゃりと笑みを作った。
汰絽の目元に溜まった涙をすくい、そのまま頭を撫でる。
「両親がいない辛さは、俺には分からない。でも、俺はお前達を家族だと思ってる」
そう囁いて、風太は汰絽をもう一度抱きしめた。
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