お手伝い

目を覚ますと、むくが真ん中で眠っていた。
ふにふにとした頬を撫でると、むにゃむにゃと呟く。


「たろ?」

不意に低い声で呼ばれ、汰絽は顔を上げた。
着替え途中の風太がいる。
汰絽が起きたことに気付いて、風太はベッドに腰をおろした。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫です」

「良かった」

笑みを浮かべた風太に汰絽は口をもごもごとさせる。
すぐに身支度を整えた風太は下にいると告げ、部屋を出ていった。


「んー…。たぁちゃんおはよぉ」

「おはよ」

「大丈夫? たぁちゃん、元気?」

「うん。大丈夫。元気だよ」

不安そうに見つめてくるむくを抱きしめて、頭を撫でる。
安心した声が聞こえてきて、汰絽は大丈夫、ともう一度呟いた。
着替えよっか、とむく、汰絽、とメモを置かれた服を手に取る。
むくの服の隣にはお土産で買ってきたにゃんこが一匹いた。
風太がたろさんだな、と名前を付けた猫だ。
むくの服は、パステルカラーの猫のきぐるみ。
フードをかぶると猫が猫のぬいぐるみを抱きしめている。
あまりに可愛らしい様子に汰絽は思わず笑みを浮かべた。
きぐるみを着せ、靴をはかせる。


「かわいいっ」

「かわいい?」

少し大きめで足元が少しだぽっとしている。
可愛い可愛いと言っていると、1階から飯食べるぞーと聞こえ、汰絽も自身の身支度を整えた。


「たろ、そのロンT似合ってる」

「…服に着られちゃってるような」

「可愛い可愛い。むくはねこさんか」

「にゃんこーっ」

朝食を終え、歯磨きも終えたところで風太に頭を撫でられる。
蜂蜜色の髪がふわふわと揺れ、汰絽の頬を擽った。


「たろ」

「はい?」

「今日は用事があって一緒に居れないから、美南と一緒にいて」

風太の真剣な顔に、こくりと頷く。
隣で猫のぬいぐるみを抱くむくも、汰絽と同じように頷いた。


「杏も所用があってそばに居れないから、美南、まかせたぞ」

「はい」

1階にいた、少ないメンバーみんながどこか緊張していて、汰絽も気を引き締める。


「お、汰絽ちゃんおはよう」

「あ、井川さんおはようございます」

「かしょーさんおはよー」

「むくもおはよう。今日はすることないだろ、喫茶店の手伝い頼んでいいか?」

構いませんよ、と返事をして、夏翔の傍へ行く。
夏翔にエプロンを渡され、汰絽は直ぐにエプロンをつけた。


「レシピ見れば一通り作れるよな」

「はい、大丈夫です」

「むくはなにすればいいー?」

「むくは美南と一緒にお客さんにオーダー取りに行ってくれ」

「ん!」

美南に抱っこしてもらい、むくは満足げに息をついた。



「今日はやけに込むな」

「そうなんですか?」

夏翔の呟きに答えながら、汰絽は開店前に焼いたケーキを切り分けた。
レシピに書かれたとおり盛り付け、美南に渡す。


「いつもはもっと少ない」

そう言いながら冷蔵庫を確認していると、店の電話が鳴る。
夏翔がさっと電話を取りながら、もう一度冷蔵庫を覗いて、汰絽を手招きした。
相手に聞こえないように受話器を手で覆い、美南と一緒に牛乳買ってきてくれ、と汰絽に頼む。


「でも、店が…」

汰絽の呟きに夏翔が、大丈夫。助っ人呼ぶから、と笑い、汰絽は頷いた。
それから千円札を手渡され、汰絽はむくと手をつないだ美南と買い物へ出かけた。



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