風太と杏

「汰絽、むく、美南が上でトランプしようだって」

「トランプ? みーちゃん、ババ抜きしよーっ」

「いいっすよ。むくちゃん」

「風太さん、あのシャワー浴びても…?」

「ああ、好きに使ってくれ」

暗に上に行け、と言われ、汰絽は訝しみながらも美南に抱かれたむくと二階に上がった。
二階の…、連休中に泊まった部屋に入る。
テーブルの上に置いてある二つの袋を見て、汰絽は美南に問いかけた。


「美南君、これ…?」

「あ、それは汰絽さんの下着とかっす。かわいい袋にはいってるのはむくちゃんの衣服っすよ」

「じゃあ、遠慮なく使わせていただきます。シャワー浴びたいから、むくを頼んでもいいですか?」

「いいっすよ。ゆっくりしてきてください」




汰絽がシャワー室に入った頃、風太と杏は一階で話し合いをしていた。
2人ともどこか疲れたような面持ちだ。
特に風太は2階の様子も気になるのか、顔は階段の方を向いている。


「どうだ。連絡来たか?」

「いや。まだだよー。今のところ様子みしてるみたい」

「じゃあ、まだ動かないな。明日の夜、か明後日の朝ってところか」

「うん。そうだね。たぶん、ここに襲撃かけると思う」

「マンションも家もあぶねえ、ってなったら、手元に置くしかねえよな」

「…はるのんのところ、オートなんとかじゃなかったっけ?」

「故障中」

目の前に出されたウーロン茶を飲みながら、風太は携帯を開いた。
特に何もない。
横に座ってる杏を見ると、杏は夏翔からもらったケーキを食べていた。
すると杏の携帯から軽やかな音楽が流れた。
かち、と確認すると、うげ、といやな顔をしながら、風太を見てくる。


「東条も動きを見せたって」

「あぁ?」

「三つ巴になりそうだなあ」

「ッチ、めんどくっせ」

「で。残念な報告」

こっちの方が最悪だよ、と杏の顔が語っている。
早くしろ、と促すと、杏はため息をつきながら呟いた。


「汰絽ちゃんとよし君の写真が東条のところにあるって」

「はあ?」

「せんにゅーそうさしてたやつからの連絡」

「…最悪な事態だな」

「だねー」

珍しく真剣な顔つきをした杏を横目に、風太はもう一度ウーロン茶を仰ぐ。
最近は飲酒も煙草も控えている。
これから起こる面倒事に、風太はあの味が恋しくなった。


「お前、フツメン連れて来た方がよくね?」

「そうだね。メールする。迎え行く」

「ん。あー。なんか食いもん買ってこい。誰か連れてけよ」

「おー。いってきー」

ひらひらと手を振りながら、下っ端を片手につかんだ杏はからんからんと可愛らしい音を立てながら好野を迎えに行った。
1人になった風太は階段を上がる。
部屋に入ると、むくと美南がソファーの上で大笑いしていた。


「むく、たろは?」

「シャワーしてるよっ、ふーた聞いてーっ」

「ん?」

「みなみちゃんね、トランプ強いの!!後で風太もしよっ」

「おう。シャワー浴びてからなー」

「ん!!」

むくの頭をわしゃわしゃと撫でてから、シャワー室へ行く。
汰絽にまだかー、と訊ねると、あのおと情けない声が聞こえてきた。


「美南君が洗濯しちゃって…あがりたくても、あがれなくて…」

「あ、着替えか? 今、俺の持ってくる」

「すみませっ…くしゅっ」

後ろからくしゃみが聞こえてきて、風太は直ぐに自分の服を取りにクローゼットを開けた。
自分と汰絽の身長差じゃどれも大きくなるな、と思い、中学時代のジャージを取り出す。
正直に言うと、ちょっぴり邪な考えがあるが。
すぐにシャワー室に行くと、大きなバスタオルに包まった汰絽がしゃがんでいた。


「どうした? まさか、具合悪いんじゃ」

「ひ、んけつ」

「貧血?」

真っ青な顔をした汰絽を見て、風太はタオルに巻かれた汰絽を抱き上げた。
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