寂しがり屋さんなのです

夏の暑さもすっかり無くなり、肌寒くなったこの頃。
最近、風太が帰ってくるのが遅くなった。
汰絽とむくがこのマンションに来てからはだいぶ経つ。
カードキーの使い方にも慣れ、汰絽は最近はずっとむくと2人での帰宅だ。

夕飯も終え、お風呂も終え、リビングに戻ってきたところ。
むくが少し悲しそうな顔で、玄関を見ていた。
どうしたのと問いかけるとむくは汰絽を見上げる。


「風太どうしたのかな、いっつも一緒に帰れないの?」

しょぼん、と見えない犬耳が、下がるのが見える。
汰絽はしょうがないよ、とむくの頭を撫でた。
寂しいなー、と、汰絽の足にしがみついてくるむくを抱き上げる。
それからソファーに座って、テレビを点けた。


「むく、幼稚園どう?」

「んー、楽しいっ、ゆうちゃんと一緒にいっつもあそんでるよ」

「そっか、楽しそうで良かった」

「たぁちゃんはー?」

「汰絽も楽しいよ」

「おんなじだねっ」

うれしそうにきゃっきゃと笑うむくに、汰絽も笑顔を見せる。
先ほどの寂しさは無くなったのか、むくは汰絽の膝に頭を乗せた。
ふわふわの髪を撫でる。むくの髪を撫でるのが好きだ。

むくがうとうととしだした頃、風太が返ってきた。
玄関が開く音の後に、ただいま、と声が聞こえてくる。
リビングにはいってきた風太は、汰絽の顔を見ると、軽く微笑んだ。


「ただいま」

「お帰りなさい、夕飯は…?」

「食べてきてない。あるか?」

「ありますよ。今、温めますね」

「おう、頼む」

むくをそっと膝からおろし、汰絽はキッチンへ向かう。
置いておいた料理をレンジにかけて、温め、風太の夕飯を用意した。
テーブルにそれらを並べ、汰絽も風太の前に座る。


「悪いな、毎日遅くなって」

「いいえ、…忙しいんでしょう?」

「ああ。ちょっと荒れそうでな…。汰絽も一応気をつけてくれ」

「はい。…あ、の…」

「ん? どうした」

押し黙った汰絽に、風太は優しく問いかけた。
問いかけられた汰絽はぱくぱくと口を動かしてから、迷うように俯く。
意を決したのか、顔をあげて呟いた。


「あの、気をつけて…」

「ああ、わかってる。…心配するな」

「はい…。あ、むく、寝室に連れてきますね」

風太の返事を聞き、それからむくを連れて寝室に向かった。

寝室に向かった汰絽の後ろ姿を見て、風太は思わず笑う。
伏し目がちに気をつけて、と言った汰絽は、とても可愛かった。
一緒に暮らしていくうちに、汰絽が段々可愛くなっていく。
その変化が風太は愛おしく思った。

戻ってきた汰絽は、風太が食べ終わった食器をキッチンへ運び、洗う。
風太はソファーに座って、テレビを眺める。
音楽番組がやっていて、特に好きなアーティストが出ているわけでもない。
かちゃかちゃとリモコンをいじっていると、キッチンの水の流れる音が止まった。
風太はリモコンを置き、そちらに目を向けると、汰絽がコップを両手にこちらに向かってくるのが見える。


「どうぞ」

「お、ありがと。コーヒー?」

「はい。…何見てたんですか?」

「ん? 何も。面白い番組ないからな。…たろの、何?」

「ココアですよ。…ココアのほうが良かったですか?」

「いいえ。コーヒーでよかったです」

ふふ、と笑みをこぼす。
その笑みにつられて笑い返した。


「明日から秋休みだなー」

「そうですね…。えっと、秋休みも忙しいんですか…?」

「ん? …まあ」

言いづらそうに眉をひそめた風太に、汰絽はそうですか…と返した。
言い出せなかったが、一緒にいたかったな、と心の中で呟く。
風太は少しさみしそうな顔をした汰絽の頭を撫でた。
汰絽の気持ちを汲み取ったのか、軽く笑う。


「…なるべく家にいるか」

「いいんですか…?」

「おう。俺がいなくても、あいつらは強いからな」

「…じゃあ、一緒にいてほしい…です」

「可愛いこといってくれるなあ」

と、汰絽を抱きしめる。
抱きしめられた汰絽は嬉しそうに笑い、風太の背中に手をまわした。
温かい体温が腕の中いっぱいになる。
風太は自分の腕の中で嬉しそうに笑う汰絽を見て、小さく笑った。
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