オプションまで付いてくるとは…っ

一番最初に出てきたのは、風太達から一番遠いボックスだった。
汰絽は何を手間取っているのか、全然出てくる気配がない。
ちなみに一番最初に出てきたのは、大柄なミニチャイナだった。
ご丁寧に、綺麗に髪まで結んである。


「なんと、大柄なミニチャイナ!! 太股がなまめかしいですねえっ」

と、楽しいアナウンスが入り、会場は大きな笑いがわき起こった。
衣装ボックスを出て、10メートルの所に机がある。
そこに置かれている箱の中からくじを引く。
大柄な生徒は難しいものが当たったのか、あーっと立ちつくした。
その様子にまた大きな笑い。
そうこうしているうちに、汰絽の入ったボックスが開いた。


「…まじか…」

「うわ…」

「おおっ、似合うねえ」

出てきた汰絽に、会場が先ほどとは違う盛り上がりを見せた。
わあぁっと大きな音。
身を乗り出す生徒までいる。


「なんと…っ、これは…」

アナウンスの生徒すら息をのむ。
というより、興奮で何も言いにくいらしい。


「なんと、セーラー服に…」

たどたどしい実況に、会場までざわつく。
風太はボックスから出てきて机に向かう汰絽にため息をついた。


「なんで、猫耳なんだ」





「猫みみキターッ!!」

どこからか大きな叫び声。
出てきた汰絽は、セーラー服に猫耳だった。
もともと少し髪が長めな汰絽はまるっきり女子高校生にしか見えない。
スカートにも気にせず走る汰絽はどこか男らしかった。


机についた汰絽がくじを引く。
実は、このくじの中には当たりくじがあるらしい。
その内容は、よくある好きな人など。
もっとも、今のところメガネ関連のものとその他しか出てない。


「さ、さて、期待の星な春野君は何を引くんでしょうか」

放送部の生徒は落ち着いたのか、しっかり実況を開始する。
汰絽はばっと引いたくじで一瞬動きを止めた。
ちなみに今現在は3位。
着替えている間に2人に越された。



「汰絽ちゃんなにひいたんだろうねー」

「一瞬止まりましたから、なんか考えるようなものなんじゃないかと」

「あー、そうだねー。結構難しいからさー。メガネとかメガネーケースとかさ」

「メガネうける」

杏と好野が隣で喋るのを聞く。
どうでもいいことしか話していない。
馬鹿だな、と軽く笑い、汰絽のほうへ視線を向けると、セーラー服で猫耳な汰絽が全力疾走でこちらへ向かってきた。


「風太さん!!」

大きな声で叫んだ汰絽に、風太は反射的に立ち上がり、伸ばされた手を掴んだ。
それから走り出す。
なんなんだ、と隣を見ると、頬を赤らめた汰絽が走っている。

手をつないで、そのままゴールする。
つないでない方の汰絽の手には、大きな紙が握られていた。
ゆっくりと歩き、審査員のところへ向かう。
その紙を審査員に渡し、判定してもらった。

審査員が、放送席に向かって、腕で大きく丸を作った。


「なんと1位…、どんでん返しで期待の星の春野君!! さすが、今年期待される1年生ですね!!」

1位、と大きく放送され、汰絽が小さくガッツポーズした。
手をつないだままの風太はなんだったんだ、と首に手を当てた。





女借りに出た生徒は、残りの時間を女装のまま過ごさなければいけない。
残りは、杏のリレーとその他しかないため、風太と汰絽は屋上に来ていた。


「セーラー服とか、あざといな」

「あざとい?」

「はは、きにすんな。…で、紙、なに書いてあったんだ?」

フェンスに体を預けて安心していたところに、風太の質問。
ようやく引いてきた頬に、また熱が戻る。
そんなに恥ずかしがる答えじゃない。


「…憧れの人」

「…俺がか? …へえ、たろは俺に憧れてるんだな」

「っ…っ、あ、憧れてますっ」

汰絽が恥ずかしそうに膝に顔を埋める。
白い太ももがきれいで、風太は思わず息をのんだ。
体育座をセーラー服のまましていて、なんだか危うい。


「…パンツ見えますよ」

「だ、だれもみませんよっ」

腿とふくらはぎの間に腕を通す。
それからもう一度顔を膝に埋めた。


「セーラー服、似合うな」

「うれしくないっ」

「かわいい」

「…っ、はずかしいです」

ぱし、と風太の二の腕に当たる。
可愛らしい攻撃に、風太は思わず笑った。



今年の体育祭は、まさかの文系科が総合優勝を勝ち取った。
汰絽や女借りに出た生徒が全員1位を勝ち取ったのが、いい点になったらしい。
セーラー服を着た汰絽が胴上げされているのを、風太と杏は笑って眺めていた。


暑い夏ももう終わります… end
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