綱引きとお昼

一番近い所で、小さくしゃがんで召集所を眺める。
杏と好野が親しげに話しているのが見えて、汰絽はじっと2人を眺める。
よく眺めていると、2人の奥で、壁に寄りかかっている白髪が見えた。
あ、風太さん。
と、心の中で名前を呼んでみる。
どうやら風太は携帯をいじっているようだ。

風太の様子を眺めているうちに、綱引きに出る生徒の入場が始まった。
駆け足で綱の脇まで走る。
好野との会話をやめた杏が、風太と一緒に入ってきた。歩いて。
歩いていても何していても様になるなぁ、とか、そんな風太を見る。
すると、丁度前を通る時に、風太が汰絽にひらひらと手を振った。


「あっ! 今春野先輩、手、振ってたよ! 誰にかなぁ」

「ほんとだー!!」

と、女子のような会話が汰絽の耳に入る。
しゃがんでいて、気づかれないだろう、と汰絽は小さく手を振った。
つい、と顔をあげて風太を見ると、風太が笑みを浮かべているのが見える。

キュン、と胸が締め付けられた。
どうしたことか、気持が温かくなる。
汰絽は、急な胸の締め付けに、顔を下ろした。
頬が熱い。かあっと熱くなったのが分かる。


ぱんっとピストルが鳴って、汰絽はばっと顔を上げた。
綱引きが始まっている。
初めは、好野も、杏と風太も出ていなかった。
けれど、白熱した戦いが始まっている。


「がんばれー!! 負けるんじゃねえぞー!!」

隣から大きな声が聞こえてきて、汰絽はちらりと隣を見た。
大柄な生徒何人かが、大きな声で応援している。
きっと3年生だろう。

終わりのピストルが鳴り、勝負は大きな声で応援している方が買った。
胴上げが始まりそうな勢いだ。
よかったね、と思わず微笑んでいると、次の試合が始まった。

次は好野と、風太と杏の試合だった。
3年生の気合の入り方が尋常じゃない。
好野は真ん中で、風太と杏は後ろの方で綱を引っ張っている。


「風太さん、頑張ってー!!」

と、辺りにまぎれて、応援すると、風太がちらりとこちらを向く。
小さく笑うのが見えて、聞こえたのか、と思わずぽかんと口をあけた。
好野のほうへ視線を移すと、好野も顔を赤くして頑張っている。
足が滑って、尻もちをつきながらも力を込めていた。
そんな好野を見て、汰絽は大きな声を出す。


「よし君頑張って!! こころちゃんが見てるよー!!」

と、叫ぶと、さっと起き上がり、低い態勢になる。
好野のこころちゃんパワーには汰絽も声を出して笑った。


結果は、風太と杏の所が1位を取った。
好野…汰絽の軍団は、2位。
それでも好野は2位だったのが嬉しかったのか、汰絽を抱きしめて騒ぐ。


「はーっ!! 楽しかった!!」

「そっか。よかったねっ。よし君、すごい頑張ってたもんね」

「うん。はーっ、体育祭ってやっぱ楽しいよなー」

「うん」

二人は静かになって、持ってきた椅子へ向かう。
スポーツドリンクを飲む好野に、タオルを渡した。


「お昼屋上行くけど、よし君も行くよね?」

「ん? あー、行く行く。杏先輩と約束してるんだよ」

「約束?」

「うん。DVD、貸してもらうんだ」

「そうなんだぁ」

話しているうちに、アナウンスがかかる。
お昼は二時前までらしい。
好野と汰絽は一瞬黙り、荷物を手に取った。


中途半端な暑さに、風太はフェンスに寄りかかった。
丁度日陰になっていて、少し涼しくなる。
グランドを眺めている杏は、煙草の息を吐きだした。


「穏やかだねー」

「あぁ」

「でもさー、たぶん、体育祭終わったら、抗争始まるよね」

「…だろうな。美南から聞いたが、東条のとこがなんか集まってるって」

「あ、それ俺も気になって見てきたんだけど…、なんかちょっとやな感じだったー」

杏が煙草を消して、携帯灰皿へ入れる。
それから、風太と同じように、フェンスに体を預けた。
距離は結構あり、間に2人入れるくらい。


「…お前、最近よく、一外を連れまわしてるらしいな」

「心外だなぁー、連れまわしてるとかぁ」

「まぁ、別にどこに連れまわそうがいいが、巻き込まれるかも知れねえだろ」

「はは…、この間はるのんにいったばかりだね、そのこと」

「…っは。…お前も俺も、あいつらに注意を払わなければならねえってことだ」

「そうだねー」

そんな風に会話しているうちに、屋上の扉が開いた。
ほわほわとした2人がゆるい会話をしながら、来る。
風太と杏を見つけた2人が、駆け寄ってきて汰絽が風太の隣に、好野が汰絽と杏の間に腰をかけた。


「…あん先輩こんにちは」

「こんにちはー。汰絽ちゃん、今日も可愛いねー」

「ありがとうございます」

にこー、と笑った汰絽は2人分の弁当をあけて、蓋を外す。
それから、風太にとりわけ用の小皿を渡した。


「風太さん、100メートル走と綱引き、格好良かったです」

「ん? 100メートルも見てたのか」

「綱引きしか聞いていなかったので、びっくりしました」

「ああ、代わってくれって頼まれたんだよ」

「そうなんですか…? でも、100メートル走の風太さん、見れてよかったですよ」

そうか、と風太が笑う。
その顔を見て、汰絽も微笑んだ。


「よし、食べるか」

「はいっ」

いただきます、と、風太が言って、汰絽もおかずを皿に盛った。
卵焼き、唐揚げ、アメリカンドッグにおにぎり。
可愛らしいサイズで、風太には少し小さい。
そのサイズを見て、風太は思わず笑った。


「可愛いサイズだな」

「え?」

「おにぎりも、みんな汰絽みたいに小さい」

「…小さくないですよう」

「はは、小さくて、可愛い」

「…いじわるっ」

2人でしゃべっていると、隣から視線を感じる。
隣の2人がじいっと見ているのを見て、汰絽はびくりとした。
風太はちらりと見るだけで、特に気にしていないようだ。


「ど、どうしました?」

「いやー、べつにー」

「汰絽、気にしなくていいよ」

こてん、と首をかしげた汰絽に、杏と好野は弁当(とコンビニの袋)に視線を移した。
変なの、と汰絽もお弁当に視線を戻した。
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