体育祭っ!

汰絽が朝早くから起きて作った大きなお弁当を持って、3人はマンションを出た。
むくを幼稚園へ送り、2人がゆっくりと歩く。
いつもと違って、そわそわとした雰囲気を感じて、風太は隣を見た。


「そわそわしてるな」

「だって、じょ、女装ですよ。人前で…」

「まあ、可愛いだろうから、いいんじゃねえの?」

「男に可愛いって…」

むうっと口を膨らませた太絽を見て、風太は思わず笑う。
それから、膨らんだ風太の頬を突いた。


「あ、汰絽ー」

「あー、よし君。おはよぉ」

「おはよーっ。は、春野先輩もおはようございます」

「はよ…。杏は? お前と一緒に行くって言ってたんだけど」

「あ、杏先輩ですか? …なんかお弁当を忘れたらしくて、コンビニへ行ってから来るそうです」

好野と風太が話すのを、にこにこと笑みを浮かべる汰絽。
お弁当箱に感じる重さを愛おしく感じた。


「じゃあ、昼に屋上で待ってる」

「はいっ…風太さん、綱引き頑張ってくださいね」

「汰絽、俺も綱引き」

そうだっけ?よし君、と言った、汰絽の顔は満面の笑みだった。




体育祭開催の音楽が流れ、生徒たちがざわめきはじめた。
校長の長い話、生徒会長の短い話、競技場の注意。
淡々と流れていく時間に汰絽はぼうっとする。
午前中までは、競技を見ているだけだ。
午後からダンスパフォーマンスと、女装で借りちゃう…がある。


「100メートル走って、盛り上がるよね」

「そうだなー。一番最初の競技だからな。みんなテンション高いんだよ」

「後半に行くにつれて、テンション下がるもんね」

「なー。…汰絽の女装楽しみだ」

「よし君、僕の女装楽しみにしてどうするわけ」

「どうもしないよー。ただ可愛いものが可愛い格好してるのをみるのが楽しみなだけだよ」

好野が鼻息を荒くしだしたところで、汰絽は100メートル走を眺めた。
もうすでに、2年生が走り始めている。
よく見ると、黒い頭が並んでいる中で、2つ、茶色い頭と白い頭が見えた。


「あれ? …風太さんって、綱引きしか出ないって言ってたような…」

「杏先輩もだ。腰が痛いーって言ってたのに」

「とりあえず、もうちょっと近づこー」

「おー」

駆け寄ってスタートラインを見ると、風太と杏が走りだした。
二人はずば抜けて足が速いのか、一位二位を独占している。
先に杏が前に出たが、すぐに風太が追い抜いて、結局風太が一位だった。


「よ、よし君っ!! 風太さんすごいね! すごいっ、かっこいい!!」

「汰絽、すごい興奮の仕方」

「だって、風太さんすごいよっ! ものすごく速かったっ! さすがっ、あの筋肉!」

「…結局、汰絽は筋肉なんだね」

「あーっ、すごーい」

うっとりとゴール先にいる風太を眺める汰絽に、好野は春野先輩、ドンマイ、と心の中で呟いた。



「次の競技は、パン食い競争です」

次の競技のアナウンスが入り、パン食い競争に出る生徒が入場する。
高い位置にある棒に、あんぱんがぶら下がっていて、汰絽は珍しそうに見た。


「…そう言えば、うちの中学ってパン食い競争なかったよね」

「あ、そうだなー。パン食いのパンって旨いのかな?」

「どうかなー」

と、眺めているうちに、パン食いはすぐに終わる。
ぎゃあぎゃあと騒いでいる三年生を見て、汰絽と好野は顔を見合せて笑った。


「次ってなんだっけ?」
 
「んー? あー、米騒動だって…。なんだろうね、米騒動って」

「んーとねー。土の入った袋とタイヤを取り合う奴だって」

「へえー。なんか、怖いな」

「怖いね。女の子がいたら白熱の戦いだったよね、きっと」

「汰絽、むなしいこと言うなよ」

一番近い場所で、米騒動とやらを眺める。
男子でも十分白熱した戦いが見れて、とても楽しい。
中でも上半身半裸の生徒がいて、汰絽にとっては、絶好の眺めだった。


「でも、やっぱ、風太さんのが一番綺麗」

「…筋肉フェチって行き過ぎると、変態だな」

「よし君だって、こころちゃん眺めているときは気持ち悪いよー」

「…しょぼーん」

くだらない会話をしているうちに、綱引きの番が来る。
好野は汰絽に手を振って、召集場所に向かっていった。
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