やっぱ、おかしいんです。

あれから、似たような毎日が続いて、筋肉痛が容赦なく汰絽を襲った。
家に帰って夕飯の支度をする前に、むくに湿布を貼ってもらうのが日課になっている。
今日はむくは結之の家に遊びに行くと言っていた。
ううう、と、呻き声を漏らせば、玄関からただいまーという声が聞こえた。

風太が帰宅してリビングに入った途端、呻き声が聞えて来た。
声が聞こえてくるのは、ソファーからだった。


「ううう…」

「…驚いた。…どうした?」

「むくが居なくて、湿布、張れないんです」

あ、そうか…。と、汰絽を眺めていると、恨めしげに汰絽が唸る。
ソファーにうつぶせに寝転がっている汰絽は、腰をさすっていた。


「腰、痛むのか?」

「腰…」

「腰だけ?」

「背中も…」

汰絽がううう、と唸ったのを聞いて、風太は汰絽がもう片方の手に掴んでいた湿布を取り上げた。
それから汰絽の腰を撫でる。


「ひっ」

「ん? どうした…。湿布張ってやるよ?」

「え? …いいんですか?」

「いいもなにも、張らないと夕飯作れねえだろ?」

「…申し訳ないですー」

「ほれ、服捲りな」

風太に言われ、そっと服を捲った。
白い肌が目にはいり、風太はしまった、と口を押さえる。
自分としたことが、自ら理性を危うくする状況を作り上げてしまった。


「…白いな」

「はい? あ、そこです」

「あ? …ああ、ここな」

そっとなぞっていたら、汰絽がそこ、と告げた。
自分が何をしていたのか気づき、風太は湿布を汰絽の背中に張る。


「有難うございました」

「どういたしまして。…夕飯作るの手伝うわ」

「ありがたいですっ」

「おう。…、体育祭、明日か」

「そうですね」

と、服を直しながら、伏し目がちに言う汰絽は妙な色気があった。
たかが湿布ごときで理性が千切れる一歩手前だなんて、と自分に呆れる。
ゆっくりと立ち上がった汰絽は、風太のほうを見て微笑んだ。





「夕飯何にします?」

「んー…、冷やし中華」

「良いですね」

「作るか?」

「はい」

冷蔵庫から材料を取り出していると、風太がひょいっと覗いてきた。
耳元にさらりとした髪が触れる。
急な接近に、心臓がどきりと一跳ねした。


「ど…どうしました?」

「んー? 別に。…なんか、お前いいにおいがする」

「シャンプーですかね。…お風呂入ったんで…」

「もう入ったのか?」

「はい。…汗、すごかったんで」

「そっかい」

風太がすっと汰絽から離れて、汰絽はようやく安心できた。
やっぱりおかしい。
そう思い、風太を眺めた。眺めていても、自分のおかしさが治るわけもない。
そう思いなおし、汰絽は鍋にお湯を入れた。


「どうしたんだよ、そんな恨めしそうな顔して」

「なんでもないですー。あ、明日のお弁当大きいものでいいですか?」

「おう。かまわねえよ」

そう会話しながら、冷やし中華の準備を着々と進めた。






チャイムの音が聞こえて、汰絽は玄関に向かった。
風太はダイニングテーブルに冷やし中華を並べている。


「ただいまー」

「おかえり、むく。…あ、結子さん、送りまで、すみません」

「いいえ。楽しかったわ。結之も最近明るくなったし、むくちゃんのおかげよね」

「そんな…」

「あ、旦那が家で待ってるんだったわ。じゃあ、また今度」

「はい、ありがとうございました」

結之に手を振って、むくと汰絽はダイニングへ向かった。
タイニングテーブルには綺麗に冷やし中華が並べられている。
風太はお茶をコップに入れていた。


「あ、すみません」

「平気平気。むく、楽しかったか?」

「楽しかったーっ。ゆうちゃんと一緒に折り紙したし、おえかきもしたよ」

「おお、お絵描きと折り紙か」

「うんーっ、楽しかったー」

むくと汰絽が席についたところで、3人は、いただきますの挨拶を口にした。
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