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風太と別れてから先ほどの教室に戻った。
しん、とした空気になっていて、騒がしかった三人が汰絽を見ている。
それから、同じクラスの子が汰絽に一歩近づいた。
いぶかしみながらも、その子が要件を言いだすまで、汰絽は黙っていた。


「汰絽君って、春野先輩と仲いいの?」

その言葉に、一瞬で何が起こったか理解した。
この三人は、汰絽と風太の関係について、何か不満があるようだ。

最近、ずっと一緒に帰ってたりしたのを、この三人に見られていたのかもしれない。
それとも、今さっき、風太と会っていたのを見られていたのかもしれない。
どちらにせよ、この三人に取って、汰絽の存在はいいものではないらしい。

後の二人は先程とは打って変わった、見ていられない程の、顔つきになっている。
そんな顔されればわかるよー。
と、心の中で呟きながら、汰絽は小さく頷いた。


「やっぱり。…ねえ、この学校のルールわかってるよね?」

「人気者には近づかない、ランキング上位者には特に」

「わかってるんだね。てっきり、理解してないかと思ってたよ」

春野先輩の馬鹿ー。
とか、脳内で失礼なことを考えながら、汰絽は目をこすった。
階段から戻って来た時に、睫毛が目にはいったようで、痛くて仕方がない。


「ちょっと、聞いてる?」

「聞いてるよ、ご、ごめん」

「えっ」

ぱっと顔を上げても、生理的な涙が溢れてて、顔が見えない。
とりあえず、ごめん、と言ったけれど、汰絽本人すら、何に謝っているのかわからない状態。
けれど、目にはいったゴミがいい展開に持ち込んでくれたのか、今まで不機嫌そうな顔をしていた三人の表情が一気に変わった。


「…あ、こっちこそ…。仲いいのは、いいことだよね、うん。…汰絽君、ごめん」

「え? …あ、うん、」

良く分からないが、顔を赤らめた三人のうちの一人が、次、体育館だからねっと叫んで出て行った。
その場を変な感じだが、どうやらしのげたようで、汰絽はほっと息を吐く。
それから、体育館だからねっ!の言葉通り、体育館に向かった。



体育館では、競技の練習をするだけだった。

まずは、早着替えの練習。
もたもたと着替えていると、せかす声が聞こえてきて、思うように着替えられない。
すみません、とカーテンを開けて謝ると、そんなことより早くして、とせかされる。
それを、二、三回繰り返した。
繰り返せば慣れが生じるようで、だいぶ早着替えが上達できた。

とりあえずは、制服から体操着に着替えるものだったため、案外気持ち的には楽。
汰絽はそんなことを考えながら、着替えていた。


「汰絽君」

先ほど、三人で言いがかり…のようなことしてきたクラスメイト。
なに?と問いかけると、そのクラスメイトは頭を下げた。


「さっきはごめんね」

「え、も、いいよ。謝ってもらえたし、それに、ルールを破ったのは僕だから」

「ううん、違うよ。もともとルールなんて馬鹿げてるから。だから、さっき言ったこと、訂正したくて」

「そっか。でも、謝ることじゃないと思う。から、気にしないで」

「ありがと…。当日、がんばろうね」

「うん」

丁寧だな、と思いながら、先ほどの二人の所に戻っていく後姿を眺める。
それから、事の原因の人物を思い出した。


「モテモテなんだ」

思わず、その言葉が口に出て、やけにその声が不機嫌だったことに気づいた。
その不機嫌さの理由が分からなくて、汰絽ははあ、と溜息をついた。
この頃の自分は、意味のわからないことが多すぎる。
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