風太、策士になる

帰るぞ、と告げられて、汰絽は上気した赤い頬を緩めた。
それから嬉しそうに椅子から降りて、風太にぴとっとふっつく。
可愛いやら、和むやら、チームのメンバーがデレデレするのを見て、風太は苦笑した。


「また来てね!! 汰絽ちゃん」

「はいっ、さよなら」

小さく手を振った汰絽を見て、風太は二階から持ってきた荷物を渡す。
鞄だけ渡して、紙袋は風太が持った。
店の外に出れば、真っ暗になっている。夏になったとはいえ、結構涼しい。
バイクは杏に返したため、帰りは歩きだ。


「はーっ、みなさんいい人でしたっ」

「そっか。良かったな」

「ふふ、煙草ぽいする人ばかりだと思ってた」

「あー? 俺のチームには、そんなマナーのなってない奴は置かないからな」

「そうですか」

楽しげな汰絽はいまだに高揚しているのか声が少し弾んでいる。
惚れた欲目からか、風太にはどんな汰絽も可愛く見えてしょうがない。

今更だが、汰絽は男だ。
胸もないし柔らかさもないけれど、汰絽が好きだ、とか心の中で惚気てみたりする。
隣の汰絽は鞄をはねさせて歩いていた。
だが急に汰絽の歩みはとぼとぼとしたものになって、風太は汰絽の顔を覗き込んだ。


「…帰ったら、むく居ないんですよね」

急にしおらしくなった汰絽は小さな声で呟く。
どうしたことかな、と、風太は手をポケットに突っ込んだ。
ポケットの中には美南が買って来た飴とセブンスター。
風太は飴を取り出して包装紙をはぎ取り、汰絽の口に放りこむ。


「んぐ…飴?」

「飴、美南が買ってきた奴。どう? うまい?」

「うまいです。…苺味」

「そっか。帰ったらDVDでも見るか? 一人じゃさみしいだろ?」

「…いいんですか?」

「どうぞ」

汰絽の顔にほわほわが戻ってきたことを確認して、風太は携帯を開いた。
メールが二件来ていて、どれも杏から。
一件目は明日の予定で、二件目はこれからの抗争の予想と情報だった。
コンビニの袋に入っている紙の内容と全く一致していて、風太は溜息を吐く。
風太さん?と不安そうな顔して見上げてくる汰絽。
そんな汰絽の頭を撫で、安心させてから、風太は携帯を閉じた。


「たろ。明日さ、ケーキはお前に頼んでいいか?」

「はいっおっけーですよ。お時間は何時からですか?」

「ん? 準備は昼過ぎから。そのまま夜通しだから、覚悟しろよ」

「うっ、寝ちゃうかも」

「ははっ。寝たら二階連れてってやるから、大丈夫だよ」

「はいっ」

他愛のない会話の途中でマンションにつき、二人は静かになる。
エレベーターに乗る途中、マンションを出たときの二人組と一緒になった。
一人は眠たそうな顔をして、背の高い男性に凭れかかっている。
背の高い男性は優しげな表情で眺めていた。
それから風太に会釈しながら話しかける。


「こんばんは、春野さん。今日はどちらへいかれましたか?」

「こんばんは。隣町の海へ行きました」

「そっか。あそこは穴場だからね。若いね」

「はは、一さんはどこいったんですか」

「映画を見て来たんだ。…あ、そちらの子は?」

「あ、春野汰絽です」

ぺこっと挨拶をした汰絽を見て、風太は小さく笑う。
それからすぐにエレベーターが二人の部屋の階につき、一に挨拶して降りた。
風太はカードキーを取り出して鍵をあける。


「あ、たろ、先風呂入って。俺部屋片付けてくる」

「はい」

風太に言われ、汰絽は荷物を置いてから風呂場へ向かった。

さっと風呂から上がれば次に風太が風呂に入った。
リビングでテレビを眺めながら、風太を待つ。
風太もすぐに上がってきて、肩にタオルをかけていた。


「よし。部屋行くぞー」

「はい」

初めて入る風太の部屋。
黒いベッドに、黒いディスク。
汰絽とむくの部屋と似ているが、壁は本棚で埋まっていた。
CDもDVDもたくさんある。
風太に座れよと言われ、ベッドに座ればふんわりと風太の香りがした。
クーラーが効いていて涼しい。


「んー、何見る? …あ、ホラーばっかだわ、そう言えば」

「…ほ、ほらーですと」

「ロシアンにゃんことアメリカンにゃんこ連れてきたから大丈夫だろ?」

「大丈夫じゃない…っ!!」

「いいから付き合えって、な? …一緒に寝てやるから」

「うう、仕方ないですね…!!」

「ツンデレだな」

布団をがばっとして汰絽は二匹の人形を抱きしめながら包まった。
風太はDVDをセットしてリモコンを片手に、包まって座っている汰絽の隣に座る。
再生ボタンを押して、隣を見るとすでに汰絽の顔色が悪かった。
それを見て、風太はしたり顔になる。
これで一晩は一緒のベッドの中だ、とか不健全なことを考えていた。
ホラー映画が始まり、隣がびくりっと大きく震えたことに風太は思わず笑う。


「じぇ、じぇいそん」

「ジェイソンだぞー」

「怖いです」

カタカタと震えている汰絽を見て、風太は面白くなった。
何にも怖じない汰絽がこんなにもカタカタしている。
その事実が風太の好奇心を掻き立てた。
風太は静かになって一番盛り上がるシーンで汰絽の肩をがしっと掴んだ。


「ひぎゃあッ!!!」

「…うお、すげ」

「ひ、ひ、す、すげじゃ、ひ、」

「おお、ごめん、見事に涙目になってる。ああ、たろ、ごめん」

「ひ、こ、わいっていってるのにッ」

「ごめんって」

盛大にひ、ひ、と言ってる汰絽に、風太は平謝りする。
それからぎゅっと抱きしめてやると、汰絽はひ、ひ、と言わなくなった。


「も、すわってるのやだ」

「そうかい。寝転がる?」

「寝転がる…。後にいて、風太さん」

「お、…おお」

汰絽のお願いに、風太は大人しく従った。
布団にくるまっている汰絽はそのままごろん、と横になる。
その後ろに風太も同じように横になった。
それから腕を回せば、汰絽はされるがままになる。


「しっかり見てるんだな」

「怖いもの見たさですっ」

「はは、怖い?」

「怖いですってっ、も、風太さん意地悪!!」

「怒るなよ、ほら、画面見てみ」

「ひィっ!!」

汰絽はロシアンにゃんことアメリカンにゃんこで目をふさいだ。
後から風太に抱きしめられて、汰絽は少しだけ緊張する。
けれど目をつぶれば、徐々に睡魔に襲われてきた。


「たろ?」

「ねむくなって…ねむい」

「寝ちゃいな。…おやすみ」

「おやすみなさ…」

ぽんぽん、と優しく撫でてやれば、汰絽は直ぐに目をつむった。
風太もDVDを消して、眠る体制に入る。
汰絽の寝息が聞こえてきて、風太も意識を手放した。
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