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「すごい、こんなおっきなとこに住んでるなんて」

「これから、たろもここで住むんだぞー」

「そうですね…。ちょっと感動ものです」

「そうか」

マンションを見上げて一言呟くと、隣から返事が返ってきた。
風太は汰絽の様子を眺めながら証文を行っている。
汰絽も覚えなきゃだぞ、と告げられ、風太の動作を眺めた。


「書類とか、手配はもう済んでるし。指紋照合だから、特に心配はいらない」

「…すごいですね」

「そうかー? まあ、慣れれば大丈夫だろ」

「は、はあ」

汰絽が慣れますかね、と呟くのが聞こえて、風太は慣れるだろ、と返した。
そんなやりとりを二、三回繰り返し、部屋へ向かう。


「うちはそこまで高さがないから、十二階までな」

「…十二階ですと…」

「そ。間違えるなよ。家は十一階」

「は…はい」

「当分一緒に帰るから大丈夫だろうけど」

「…なら、安心です」

風太がカラカラと笑ったのを聞いて、汰絽も同じように笑った。
エレベーターですぐに十一階につき、風太に案内されて部屋へ向かう。
降りて少し歩いたところに、『春野』という表札が見えた。


「内装もとっても綺麗なんですね。歩いてて思いました」

「だよな。結構掃除とか行き届いてるし。あ、マンションの一階にはレストランとかカフェとかあるから」

「…もう驚きませんー」

「そうか。残念」

「…、荷物、重くないですか? 交代します?」

「汰絽が持ったら引き摺るだろ…床に跡が残るぞ」

他愛のない会話がまた続き、風太が終止符を打った。
ジーンズのポケットから財布を取り出し、財布の中からカードを取り出す。
それからドアの取っ手の下にある隙間にカードを通した。


「これ、カードキーな。後で渡す。ノーマルな鍵もあるけど、まあ、これで十分だ」

「はい」

「ほれ、はよ入りな」

「あ、はい。お邪魔します」

「…ただいまだろ」

「…ただいま帰りました」

「お帰り」

風太にからかわれつつも部屋へ入った。
日差しがいい感じに部屋を照らしている。
入るとすぐリビングのようで、黒を基調とした家具が綺麗に並べられていた。
風太が荷物を置いたのを見て、あたりをもう一度見渡す。
大きなテレビに、大きな窓ガラス。
外の景色が一層できた。
キッチンとリビング、ダイニングがつながっていて、食事を運ぶ時も、作っている時も会話ができる、汰絽にとって、うれしい作りになっている。


「…す、すごいです。…こんな、素敵な」

「だろ。結構使い余しててな。だいたいリビング側にいるから結構汚れてるかも」

「…あとで掃除しましょうか?」

「お願いします。冷蔵庫の中とか空だからさ、買い物行こうぜ」

「はい。…あ、荷物」

「おう」

風太がもう一度荷物を持ち上げたのを合図に、二人はリビングから廊下に出た。
廊下を数歩歩くと、扉がいくつも見える。
一つ一つ説明を聞きながら歩いてすぐに風太がドアを開いた。


「取り合えず、たろとむくの部屋。…もう一部屋あるから、いずれはそこをむくの部屋にすればいいと思ってる」

「…そんな、あの…」

「部屋、余ってるから心配するなよ。ベッドはもう入れてあるから」

「ありがとうございます」

「家具はうちにあるものが入ってるけど、替えたいようだったら言って」

「…めっそうも」

「家族なんだから。もっと甘えなさい」

「…は、はい」

風太が茶化すようにそう言ったのを、汰絽は照れたように笑って返した。
ベッドの脇にある大きなクローゼットを開くと、服がたくさん収納できるようになっている。
服の隣には本棚もあり、まだ何も入っていなかった。
テレビも、おしゃれなディスクも置いてあり、なにもかもがそろっている。
あまりの待遇のよさに、汰絽は申し訳ない気持ちになるが、風太の飯とか掃除は頼んだぞーとの声に救われる。
荷物を早く片付けようと、大きな鞄を開いた。


「洋服入れるとこ、右がたろで左がむくでいい?」

「はい、おねがいします」

「むくの鞄とかはタンスの脇にかけとくから」

「はい」

風太に手伝ってもらいながら荷物を片づける。
一人で持てる荷物だけだったこともあり、片付けはすぐに終わった。
それから一通り、部屋の中の説明をしてもらい、むくを迎えに行こう、ということになった。


「俺さ、今日は別として、土曜の夜は家空けること多いけど、いい?」

「構いません。夕飯は?」

「ん? 済ませてくる」

「はい。その、いまさら何ですが…、ほんとにありがとうございます。感謝してもしきれないです」

「そんなかしこまるなよ。お前のとこのばあちゃんの頼みでもあったし、それに俺はお前と過ごせるのは嬉しいよ」

「…照れちゃいますー」

「うわ、真っ赤。照れ屋さんめ」

笑い声が重なって、すぐ目に入ってきた公園。
公園からも笑い声が聞こえてきて、むくが夏翔と楽しそうに遊んでるのが見えた。
汰絽を見つけたむくが公園に入った二人に駆け寄る。
その後ろから夏翔がゆっくりと歩いてきた。


「井川さん、ありがとうございました」

「いーえ。楽しかったぞ。な、むく」

「うん!! かしょーさん、たのしかった」

「ショウ、鍵。このまま買い物行くから。じゃあな」

「まぢか。おーじゃーなー」

「井川さんさよなら」

「かしょーさんばいばーい」

夏翔が手を振ってマンションの駐車場に向かっていくのを見送りながら、むくを風太が抱き上げた。
嬉しそうに手を振っているむくに風太は小さく笑う。
汰絽も同じように夏翔に手を振ってから、むくの膝についた泥を払った。


「夕飯何にします?」

「んー? むくは何がいい?」

「うーん、なんでもいーよ!」

「そうか。昼は病院でラーメンだったしな」

「そうですねー」

そんな会話をしながら、三人はスーパーに向かった。
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