汰絽と風太
「よ、」
桜も散り、葉桜にかわっていたのを見ながら、学校へ向かっていた。
葉桜も綺麗だな、と思ったところで、知った声が耳に入る。
視線を移すと、笑顔を携えた風太が歩いてくる。
「おはようございます。は…」
「風太」
「うっ…だって、なんか、今更ですよう」
「ふ・う・た」
「ふ、風太せんぱい」
「家族なのに、センパイ?」
くつくつと笑う風太に汰絽は顔を真っ赤にしながら、そっぽを向いた。
風太は汰絽の様子に笑いながら、頭をぽんぽん、と撫でる。
うう、と、汰絽は小さく唸った。
「じゃあ、ここでな。昼、一緒に食べるか?」
「いいんですか?」
「おう。あいつもつれてきな。屋上で待ってるから」
「はいっ!!」
いい返事を聞いて、名残惜しいが、風太はひらひらと手を振った。
汰絽もそれに応えるように、小さく手を振る。
それから、二人は別々に歩き始めた。
風太が数歩歩いてからもう一度振り返ると、汰絽も同じように振りかえっていた。
目が合ったことに気づいたのか、汰絽は小さくもう一度手を振る。
あぁ、もー。と思わず呟いて、風太は口角が上がるのを感じた。
「おっはよー」
「…っチ」
「朝から機嫌いいと思ったら、今度は舌打ち!!どうして、はるのんはそんなに気分屋さんなの!?」
「うぜえ。朝から超絶うぜぇ。せっかく…」
「せっかく?」
教室に入れば、様々な声が聞こえてくる。
ひい、だの、今日も素敵、だの。本当に様々な声。
その声に慣れているのか、風太は涼しい顔で自分の席に座った。
席についたと同時に杏に声をかけられる。
そのことにより、風太は眉を吊り上げた。
思わず零してしまいそうになった、先ほどの出来事をもう一度飲みこむ。
その様子に気づいたのか、杏はにやにやと笑いはじめた。
「はるのん、イイ事あったでしょー!!」
「別に」
「どうせ、汰絽ちゃんのことでしょ」
「…お前みたいな、ヤリチンには一生わからねえことだよ」
「…はるのん、さすがに、そういわれると、切ないっ…」
くだらない会話に終止府を打つように、チャイムが鳴った。
窓際の席で外を眺めていれば、緑色になった桜の木がならんで見える。
汰絽はこれを眺めていたのか、と思えば、自然と温かい気持ちになった。
「汰絽、おはよ」
好野の声を聞いて、汰絽は笑みを零した。
それはもう、幸せそうな顔で。
幸せ前開の汰絽に好野は驚きつつも、自分の席に腰をおろした。
「どうしたのさ、そんな幸せそうな顔しちゃって」
「えー? そんなことないよー」
「いやいや、大分幸せそうですよ」
「そうかなぁ」
汰絽が首を傾げるのを見て、好野もおなじように首を傾げた。
好野の様子に今度は汰絽が首を傾げる。
二人で同じような行動をとってるうちに、チャイムが鳴った。
首振りがそれと同時に止まり、二人は体の向きを正しい位置に戻した。
なにごともなく授業が終り、昼休み。
そわそわし出した汰絽に、また好野は首を傾げる。
かたんっ、と音を立てて立ち上がると、汰絽は弁当を持ってよし君、いくよっと好野の弁当を手に取り教室を出た。
「え、え、どこいくの、汰絽」
「ん、ふ…、ふうたさんのとこ」
「え? ふ?」
「春野先輩のとこ!!」
「え? オクジョウ?」
「うん」
顔色が真っ青になった好野に目もくれず、汰絽はずんずんと階段を登りあげ、屋上の扉の前に立った。
それから、どこかうれしそうに扉を開ける。
真っ青な空の下、フェンスに凭れた白と茶色が離れてならんでいる。
汰絽はその様子を見て、ほわっと口元を緩めた。
それから、白い方へ向かって駆けていく。
「ふーたさん」
がしゃん、とフェンスが揺れるのを感じて、風太は自分の隣へ視線を移した。
そこには、自分よりだいぶ小さくて、ふわふわの髪を持つ子が居る。
その存在に口元が緩むのを自覚した。
「たろ、早かったな」
「そうですか?」
「おう。よし、飯食おうぜ」
「はいっ」
汰絽が風太の隣に腰をかけると、好野や杏も同じように座り始めた。
がさがさと隣で袋を広げるのをみて、汰絽はあ、と声を出す。
「コンビニ、ですか」
「あー、作るのメンドウだし」
「…じゃあ、来週からは、お弁当ですね」
「ん? あー、そうだな。助かる。…昨日、書類出しに行った」
「受理されましたか?」
「おう。なんなくクリアってとこ」
「良かったです」
そんな会話を聞いて、杏と好野は同じように頭にはてなマークを浮かべた。
それにかまわず、二人は仲良さげに話を進める。
「そういや、ばあさんの仏檀どこにあんの?この間行った時、見当たらなかったけど」
「あ、おばあちゃんのお仏檀は本家のほうにありますよ」
「じゃあ、移動することはないな」
「はい」
「ちょっとちょっと、はるのん、汰絽ちゃんどういうこと、何、一緒に住むの? え? どういうこと?」
「あ? あー、まあ、そのうち説明する」
「えぇ!?」
思わず口をはさんだ杏に、説明するのが面倒くさいのか、風太はそこで話を止めた。
汰絽もそれに従って、弁当を食べる手を進め始める。
杏は、そんな二人に、え!?や、どういうこと!?と、好野へ振ってみたりしていた。
が、生憎、好野も把握してないため、答えることはできない。
結局、二人して悩むことになった。
「今日、寄ってきますか?」
「んー、いや。今日はショウのとこ行くから、よしとく」
「…そうですか」
「なに? さみしい」
「…別に」
「土曜、構ってやるから。そんな顔すんな」
「べ、べつに、かまってほしいなんか」
「おおっ、ツンデレってやつか?」
じとっとした目で汰絽に見られて、風太ははっと小さく笑った。
杏と好野は先程悩んでいたことが嘘のように楽しそうに会話している。
チャイムの音が響いて、四人は後片付けを始めた。
「じゃあ、たろ、土曜な」
「はい」
ひらひらと振られているてのひらに、汰絽は小さく笑って頭を下げた。
[prev] [next]
戻る