5
夕食を終え、リビングのカーペットに座った時、風太は汰絽に目配せした。
汰絽はその意味を捕え、むくにお話があるから、と伝える。
むくは素直にその言葉をきき、体育座りをした。
可愛らしい行動に、風太はむくの頭を撫でた。
「むく、この間、汰絽から家族がほしいか聞かれただろ? そのことな。」
「うん。なあに」
「俺、説明下手だから、てっとり早く言うけど。あのな、風斗と俺が、むくの家族になるんだけど…」
「むくと、たろちゃんと、ふうたとかざとが、みんな家族になるの!?」
「おう。こうやって、一緒にご飯食べて、お風呂入ったり、一緒に寝たりするんだ」
「ほんとう!? みんな、いっしょなの?」
「おう」
「じゃあ、ふうたとたろちゃんと、いっしょにおやすみなさいできるの!?」
「そうだ」
「うれしい!!」
話が早く進み、むくがうれしそうに風太に飛びついた。
その様子に汰絽がほっとしたように笑みを浮かべる。
風太は壁にかかっている時計を見た。
「ああ、書類ださなきゃだな。汰絽、わるいけど、残りの説明頼む」
「はい」
「それと、お前も春野になるんだから、春野先輩はやめることな」
「…、は、はい」
「むくはー!? むくも、ふうたとおんなじ?」
「おう。おんなじだ。むくも六十里から春野になるんだぞ」
「うれしい!! たぁちゃんと、ふうたと一緒ー!!」
むくがきゃっきゃと騒ぐのを眺め、汰絽は笑う。
それから風太が帰るわというのを聞き、むくを抱きあげ玄関へ向かった。
「じゃあ、今週の土曜にまた親父のとこ三人で行って、荷物とか移すことになるけど、いいか?」
「はい。わかりました。あの、」
「どうした?」
「いえ。その、春野先輩は、めいわくじゃないのかなって」
「また春野って…。まあ、今日は大目にみといてやるよ。…メイワクとか、余計なことかんがえるな。俺は飯をつくる手間とかいろいろ省けるし、むしろありがてぇから」
「ありがとうございます…」
「満足したみたいだな。むく、じゃあな。たろは明日会うかもな」
「ばいばーい!!」
そういって、風太が出ていったのを二人で見送り、リビングに戻った。
「むく、うれしい?」
「うん、すっごくうれしい!!」
「よかった」
「風太とたろちゃんと、かざともいっしょ、すごいうれしいよ」
「むくが嬉しいと、たろもうれしい」
むくが興奮したように、きらきらとした瞳で汰絽に話す。
それをみて、汰絽は自分が選んだことが正しかったことに気づいた。
汰絽が安心したように笑うから、むくはほっと息をついた。
「むく、お風呂はいろっか」
「うん」
むくと手をつないで風呂場に向かう。
小さな手は嬉しそうに揺れた。
「お風呂、みどりだね」
「入浴剤入れたからね。みどり好き?」
「好き。あかも好き」
「あか?」
「うん。ゆうちゃんね、あおが好きなんだって」
「そうなんだ。あおもきれいだもんね」
「たぁちゃんは何色が好き?」
むくに問いかけられ、一番はじめに思い浮かんだ色。
それは、桜の中で見た、空のような青色だった。
その色の持ち主を思いだして、汰絽は思わず笑う。
「たぁちゃん?」
「ん? たろは、空色が好きかな」
「空色? …どんな色?」
「空みたいな、綺麗な青色だよ」
「むくも見てみたいなぁ」
「今度探してみよっか」
「うん!!」
空色。
思わず答えた色は、風太の色だった。
探してみよっか、とむくに言ったけれど、汰絽の中の空色は風太でしかない。
秘密にしておきたい、と、密かに思った。
大分温まったかな、と思い、汰絽はむくと十数えた。
お風呂からあがり、寝巻きを着こみ、髪を乾かす。
ふわふわのむくの髪を乾かしてから、自分も髪を乾かした。
「おやすみ」
「おやすみ、たぁちゃん」
むくと高揚した気持ちを抑えるように眠った。
心地よい、と感じながら眠りにつけば幸せな夢を見た。
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